macaron momen | ナノ

04

 どうすればいいんだろう。率直な疑問だった。先ほどまでは人の後ろを歩いていたから安心しきっていたが、1人で歩くには広すぎる。きっと方向音痴でなくとも、ここでは迷子になる。1階に降りて、あの子とお話したいけれど、その階段もいまではどこにあるかわからない。本当に、どうしようか。

 そう思いながら、ぼーっと外を眺めていると、幹の上で寝ていた3男、キルア様(と呼ぶしかないだろう、うん)が、目を覚ましたようだった。それからわたしの視線に気づいたのか、顔を上げる。――大きな瞳がさらに大きくなるその顔はまるで猫のようだった。
 キルア様は、コッチを指さして何か伝えようとしている。さっぱり理解できなくて首を傾げていると、目の前(2階の窓越し)に急に現れて「鍵、開けて」と発した。

 慌てて鍵を開けると、ひょいっと軽々廊下に立っていた。あまりの出来事に開いた口が塞がらない。やっぱり、人間離れしてるんだなあ。と思えた。運動神経然り、教育観念然り。

「新人?」
「新人……というか、拉致されて」
「拉致?」

 気さくでいかにも少年らしい話し方だ。くりっとした猫目をパチリとさせて「ああ」と頷く。

「兄貴……デブの方?」

 悪気なくお兄さんをデブと言ってしまうのは、若気の至りか。それか仲が良くないのかもしれない。

「最初はミルキ様にお仕え予定で連れてこられたみたいで」
「最初?」
「その後イルミ様に助けて? もらいまして。で、ここに置き去りに」
「ひっでー! じゃあ、暇なの? ねえ、ゲームしようぜ!」
「あ、はい」

 キルア様は満面の笑みをわたしに向けた。それがあまりにも嬉しくて、わたしは大きく頷いた。


 部屋に通されると、これまた大きな空間だった。見たこともないような大きなテレビに、差しっぱなしのゲーム機。散乱したお菓子の袋。――何かを埋めるように……そうか、寂しさを埋めるように。わざと、こうしているのかもしれない。

「んーと、あった! 格ゲーできる?」
「やったことあります」
「じゃあコレ。名前登録したいんだけど……」
「ナマエです」
「りょーかい」

 棒付のキャンディを口に咥え、コントロラーを握る。ほんとに、男の子だ。普通の。こんな子が人を殺すなんて信じられない。……もしかしたら、まだそんなことしていない?

「キルア様はゲームがお好きなんですか?」
「様なんてやめてよ。敬語とかもイヤだ」
「それは……」
「2人の時だけでも! だめ?」
「……キルア、くん」
「えー! まあいっか。じゃ、はじめるぜ」

 ゲームはキルア……くんの圧勝で、RPGに変わり、その様子を見るだけになった。ダンジョンが1つクリアする頃には日が暮れていた。さて、ここからまたどうしたものか。と悩んでいると、「ナマエいる?」

「げっ、兄貴だ」
「イルミ様? 少々お待ちください」

 扉を開けると、そこにはわたしのご主人様と呼ぶべき人物が立っていた。正直なところ、ココから抜け出して家に帰る方法を知りたいが、そうもいかない。これも全部、写真のせいで、あの青年の引き起こしたことだと思うと、やはり簡単に受けてはいけなかったと過去を恨みたくなる。

「部屋、準備させたから。本邸じゃなくて、離れだけど」
「ありがとうございます」
「連れていくよ、キル」
「ああ」

 キルアくんは不機嫌そうに、テレビの前に戻っていく。イルミ様が踵を返して歩き始めたのを見て、「バイバイ」と小さく手を振ると、キルアくんはそっぽ向いて手を挙げた。

 きっと、あの子はわたしとの遊びが望んだ幸せになるんだろう。廊下を歩く足がなんだか重い。

散乱した少年の葛藤


▼ 内容は変わらずに文章を加え、わかりやすくしてみました。
Material from HADASHI / Design from DREW / Witten by 腎臓からレニン / 2014.05.18 修正






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