macaron momen | ナノ

02

 寝ぼけ眼で近くにあった目覚ましで時間を確認し、項垂れる。こんな朝早くに、チャイムが鳴るなんてあるのだろうか。AM 06:25――確かに平日で朝の早い人なら、着替えて朝食の準備をしている時間帯だろう。

 ピンポーン

 居留守……というよりは、寝ている手を使おうと無視をして布団を被ったものの、チャイムの音は止まない。もしや近くで何かあったのだろうか。ほんの少し、不安が募る。仕方ないと、まだ温かいベッドから出て玄関先まで寝癖を整えながら歩く。こういう時、インターホンは便利なんだろうなあという考えが過ったが、宅配以外にチャイムを鳴らされる事があまりなかったので、やはり不要だと1人頷く。

「はい」

 そろり、鍵を開けドアを少し開けて外を見れば、その数センチという隙間に手が侵入した。思わず声を上げ、扉を閉めようにもその力が強く、難なく開いてしまう。「ナマエ=ミョウジ様ですね。ミルキ様がお呼びです」……それは一体どちら様だろうか。確かに寝起きで頭は上手く働いてないかもしれないが、いきなり差し込まれた手やスーツ姿の男性に目は覚めている。驚いて状況を掴めずに首を傾げれば、「ゾルディック家の次男にあたります」という耳を疑うその名に息をする事を忘れた。

 平々凡々と過ごしていたわたしでさえも、その名前は知っている。パドキアに住んでいるのだから、彼らの噂は良く耳に入るし、デンドラ地区は目鼻の先だ。――暗殺一家。それがゾルディック家。しかし、その次男のミルキという男には会った覚えなどなかった。「同行、して頂けますね?」その有無を言わさぬ雰囲気に、渋々頷いて車に乗り込む。、目的地までの途中、寝間着のままの自分に慌て、彼らに「着替えたい」と訴えてみたものの、返事はなく、そのまま豪邸を目にするのである。


「ココが本邸になります。ミルキ様のお部屋まで案内します」

 その壮大さに腰を抜かしかけたわたしをよそに、男は颯爽と歩いていく。慌てて着いていくと、心臓が激しく脈打つのが分かった。何か1つでも楚々をすれば、いたぶられ、殺されるのではないか、そんな考えが過り、足が竦む。「ミルキ様、ナマエ様をお連れしました」控えめなノック音。頭を下げる男の額にじんわり汗が滲む。「入れ」くぐもった声が聞こえ、扉が、開いた。

 まず視線を奪われたのは、大量のフィギアだった。等身大のものから、小さなものまで。コンピューター機器とそれらで埋め尽くされた室内は、汗の匂いとスナック菓子の匂いが立ち込めていた。冷房はこれでもかというくらいに効いているので、ほんの少し寒気がする。――その中で汗をかき続けているこの男が「ミルキ」である事に間違いなさそうだ。

 スーツの男は丁寧にお辞儀をし、この場から離れる。わたしには一切目もくれず、扉の向こうへと消えた。「何だ、化粧もしてないのか」荒い鼻息と共に、そんな言葉が聞こえる。何と返せばいいのか分からずに黙っていれば、「まあ、いい」と大きく息を吐いた。

 ――殺し屋のイメージとは随分とかけ離れているが、まともかと言われれば違う気がする。何かを間違えるとプツンと切れて、暴れるような、そんな……。考えるだけで震えが止まらない。

「別にとって食おうなんて思ってない。ただお前にはある仕事をしてもらう」

 近くにあったポテトチップスの袋を開け、そのまま口に流し込む。脂の付いた指を懸命に舐める姿に、一刻も早く逃げ出したくなった。「服は用意する。あとは適当に合せればいい。――お前の容姿が気に入ったんだ」……何、どういうこと?

 彼はしゃぶった指を服に擦り、1枚の写真をわたしに見せる。「……それは」先日、花屋の前で撮られた写真のようだが、服が違う。あんなに足を出す服など持っていないし、ハートだらけの派手な服に、羽根まで生えている。なんだ、なんなんだこれは。声に出さずに首を傾げていると、「キラジェネのジュナ」と言われ、更に頭を抱える。

「お前の写真がネットに上がって話題になった。ジュナに似ているってな。そこで合成写真が出回った。まあ、若干期待外れだけど許容範囲内だ。――お前はこれからオレに仕えろ。コスプレしてな」

 気の遠くなるような発言に、これは夢だろうと目を瞑った。

さよならわたしの平凡で
ありふれた世界


▼ 内容は変わらずに文章を加え、わかりやすくしてみました。
Material from HADASHI / Design from DREW / Witten by 腎臓からレニン / 2014.05.18 修正





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