へんなやつ | ナノ

 目が覚める。一番最初に驚いたことは、天井が真っ白だったことだ。次に驚いたことは、辺りを見回そうと上半身を起こす時のだるさ。そして、何も思い出せないということだ。いや、実際には何もという訳ではない。わたしは変な夢を見ていたし、妖精と名乗った物体は確実に妖怪とかそういう類のものだということはわかっている。しかしあれは夢だ、そうしてコレも夢なのだろうか。大きく息を吸って吐くと、肺が痛んだ。

「名前……」

 夢の中のくろいやつは、わたしを記憶喪失だと言っていた。しかしあれは夢だ。なのにどうして、自分の事がわからないのだろう。年は? ここは病院? どうして? そんな疑問が浮かぶ度に、こめかみがズキズキ痛んだ。何、アレ本当なの? まさか、そんな訳ないじゃない。第一、記憶を食べる妖精って何。あのナリで妖精って何。夢の事はこんなにも鮮明に思い出せるのに、自分の事は思い出せないなんて悔しい。とっても悔しい。もしも仮に、アレが本当なら呪ってやる。ていうか返せバカヤロー! ……なんか、喉乾いちゃった。飲み物、欲しいなあ。

 節々は痛むけど、体を動かすことに支障はなかった。白くて固いベッドから出て、丁寧に揃えられたスリッパを履く。しかし何でまた入院なんか……。大きな個室なんて、わたしはお金持ちなんだろうか。立派な花まで飾ってあるよ、どうなんだろう。しかし暑いなあ、蝉も五月蠅いし、今の季節は夏か。そこからわからないなんて、本当に最悪だ。ご丁寧に、わたしの腕から伸びる点滴。面倒だなあとは思ったけれど、引き抜くのも怖いのでガラガラと持っていく。

「あ」

 ドアに手をかけようとして、タイミング良く開く。音は最小限、そしてスムーズに。瞬きをして声を漏らすと、目の前に背の高い男の子。えっと……知り合い、なんだよね。だって、ここわたししかいないもん。「起きた、のか」黙って頷いてみる。男の子は手に持っていたペットボトルを床に落とすという、これ何のドラマですか? な状況を作って「待ってろ、医者呼んでくる」と慌てたように飛び出して行った。――これ、飲んでいいのかな。転がったペットボトルを拾い、大人しくベッドまで戻る。

 そういえば、くろいの言ってたっけ。「大事な人が来る」って。わたしはその人の名前までもわからずにいる。大事って何? 家族? 目を閉じて「1,2,3」カウントを取ってみた。まさか、そんな、夢だもんね。「やあ、お困りかい?」声が聞こえる。いやいや、そっと目を開ければ夢でであった、自称妖精。

「お困りどころじゃない、呪ってやろうかバカ」

 盛大に暴言を吐けば、ふっくらとした体がひゅんと細くなる。「と、と、取って食われるーーー!」「こっちのセリフなんだけど! 記憶を返してよ、わからないんだから!」それは無理だって言ったじゃないかーとおしくらまんじゅうの如く体を寄せ合う3匹。もう嫌だ、どうすればいいの。彼と医者が来るまでに、その方法を見つけたいんだけど。
\僕達もその方法見つけたい/



 ああ、呼ばなければ良かった!!!! 

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -