ふらり、彼はやって来る。

 日を告げる事はまず無い。まさに神出鬼没。彼を簡単に表すとしたらコレなのだろう。別に神のような神々しさなどなかったし(この世界にカミが付くものなんてろくじゃないものだけど)慈悲も持ち合わせている様子は無かった。だからといって鬼に例えるならば、覇気も怒気も足らない。喜怒哀楽でいうなら、怒と哀は母親の腹の中にでも置いてきたのだろう。いつかわたしがそう口にすると「それは酷いな」と大きく息を吐いていたが、気にするわけでもなく、いつも通りへらへらしていた。――よろず屋とは、そういう男であった。

 私と彼が出会ってから、結構な年月が経っていた。

 自分の誕生日も曖昧な私にとって、日を正確に数えることはない。しかし、それでも確かに彼との間には相当な時間が流れているとも思えたし、今日までがあっという間だというのもまた事実だった。「やあ、ナマエ」と、よろず屋は私を見つけるなり声をかける。それが、日常。

遠くの空が赤く染まり始めていた。夕刻だった。

 今日も今日とて何処かでは、アラガミが好き勝手やっているのだろう。物も人も簡単に食らう癖に、空は驚く程に美しいままだ。見上げても希望なんてものは存在しないのに、こうして少しだけ安堵できる。まだ、この世界は大丈夫だ。そう言い聞かせることができる。だからこうして生きようと必死によろず屋に物を売って生計を立てている。

「今日は何処で?」
「贖罪の街。やっぱり隠れる場所があった方が気持ち的には、ね」
「本当に運が良い。もし昨日だったら……。ディアウス・ピターが出たらしい」
「ディアウス?」

 フェンリル極東支部、通称アナグラに店を構えるよろず屋の情報はまず、正しい。居住区に住む私がここまでアラガミやゴットイーターの事を知る事は、普通であればありえないことだった。「ヴァジュラのようだが、もっと邪悪な顔をしているらしい」「だから、オウガテイルの数も多くなかったのかな。今日はいつもより、静かだった」余計、不気味だった。

「運が良いのもそうだが、勘も働くなあ、ナマエ」
「まあ、それだけが取り柄だし。じゃなかったら、わざわざ危険を冒してまで物を取りに行かないよ。レアモノなんてそう多くないし、命の危険の方がハイリスク」

 だけど私の場合は、高確率でレアモノを発見できる。生まれ持った才能なのか、運を味方に付けて生きている。最近は特に確率が良かった。よろず屋は「そうだな」とケタケタ笑った。それから私の取って来た物に値打ちを付け、金を払って帰っていく。――ひょろりとした針金を連想させる体。しかし、真っ直ぐではなくあちこちに折れ曲がったような。ゆら、ゆら、蜃気楼のように歩く彼の背中がふと消えた。既に日が暮れていたので、夜に食われたようだった。

 さあ、休もうか。

 固いベッドに身を投げ、目を瞑る。明日はもっといいものが拾えると良い。そう思っているうちに、眠ってしまった。



或る流れ星の語る瞬き

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -