夜空がとても似合う人だと、思った。笑っているときも、太陽みたいに明るいというよりは、ふんわりした……えっと、ほら、分厚い雲に隠れている時のぼやけた月明かり。次第に風に流されて顔を出す月が、わたしはとても好きだった。マルコはそれに似ていると思う。そしたらきっと、そのそばかすはお星さまだね。そう笑って言ってみたら、目を見開いた彼が「恥ずかしいよ」と口にして、ふと笑った。

「どうして笑ったの?」
「だって、僕はナマエのことをずっと太陽みたいだって思ってたから」
「……そうなの?」

 うん、と小さく頷いてマルコは空を仰いだ。つられてわたしも見上げれば、今日は生憎の曇りで、一層近くに空があるような気がする。「今日は太陽も月も星も見えないね、きっと」ぽつり、呟く。なんとなく、寂しいな。

「マルコに会えない時はね、ぼーっと夜空を見てるの」
「どうして?」
「そばかす座を探すんだよ。あ、あそこの星はマルコのそばかすに近いなって」

 いつか教えてあげるね。そう付け足せば、困ったようなマルコの顔に影がかかる。「うん、いつか、ね」力無い声に、なぜだろう。すごく不安になった。寂しくなった。

「ねえ、いつか、さ」

 風が吹く。さわさわと葉が歌う。鳥が鳴く。マルコがわたしを見て、笑う。驚くほど美しくて、この一瞬を切り取れたらいいのにな。懸命に瞼に焼き付ける。湿った空気は、青臭い葉っぱの匂い。それからマルコの匂い。鼻の奥がつんとした。

「いつかでいいんだ。もっと世界が平和になったら、でも」

 あー、いや、やっぱ……。ううん、今しかない、か。ぼそぼそと独り言。首を傾げて続きを待てば、すうと大きく息を吸うのが聞こえた。

「お付き合いを前提に結婚してくれませんか」

 はて、とわたしはその首をさらに傾げた。張本人も一瞬、あれっと首を傾げる。何か、違う気がするのはわたしだけ? 思考を巡らせていると、みるみるうちに頬を赤く染めるマルコが「あっ、いやっ、違うんだ!」と大きな声を出した。――えっと、反対だよね? わたしもようやく気付く。何よりも嬉しい言葉なのに、彼らしくない失敗に思わず笑いが零れた。

「わ、笑わないでよ」
「だってさ、あはは、マルコらしくないなあ、もう」

 俯いて、手を首に当てたマルコを下から覗き込めば、今度は両掌で顔を覆ってしまう。「マルコー?」「お願いだから、見ないでくれるかな」そんな彼が愛らしい。だって、マルコは優秀なんだ。誰よりもよく考えて行動する彼が、わたしだけに見せた失態。

「返事は聞かないの?」
「いつか、聞くよ」
「いつか、でいいの?」

 うん、いつかでいいから、からかわないでくれ。ぐっと引き寄せられた体。間がないくらいにピッタリくっつくと、わたしの心臓の音が聞こえてしまいそうで恥ずかしい。だけど、回された腕は力が入る一方だった。

「大人になったら?」
「うん、それで、いい」
「じゃあ、その時までわたしを離さないでね」

 離さないよ。耳元で囁かれた言葉に思わず涙が溢れた。マルコはわたしの表情を見れないし、わたしもマルコの表情を伺うことは出来ないけれど、きっと同じ気持ちなんだと思う。――世界中の誰よりも幸せだよ、って。そんな喜びを噛みしめて。



Million messages written in the stars
(思えば、太陽と月は滅多に巡り会わないね。またいつか彼に会えることを祈って、空に浮かぶそばかすを探して泣いている)

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