お目当ての彼が、テーブルに向かい生真面目に物を書いている時は、大抵わたし以外の女の子のことを考えている。彼もその子も、わたしにとってとても大切な仲間には違いないが、少しだけ寂しい気持ちになるのはいつものことだった。

 短く切り揃えられた銀髪。フェンリル配給の青いジャケットには解れ1つ見当たらない。自分に厳しいというか……根が真面目すぎて、疲れそうだなあという印象も言葉を交わすと何処かへ消えてしまう。

 生きることにストイックなのだ。良くも、悪くも。

 「その1つの解れが、気の緩みだ」と、別に怒る様子ではなかったが、淡々と言いのけ、懐から出したライターでわたしの戦闘服からひょろりと顔を出した1本の糸を焼いた。わたしはまだ新人で、なんとなく近寄りがたい「ブレンダン・バーデル」という男を何も知らなかったし、ブレンダンもわたしのことを知ってる様子はなかった。

「ナマエ」

 名を呼ばれ、ふと現実に戻される。集中している割には、気付いてくれるの。自然と頬が緩む。「何かあったのか?」……何かなければ会いに来てはいけないということなのか。そんな思考になるわたしがいけないのか。落ち着いて、と言い聞かせ大きく息を吐く。

「新型に適合したから、アラサルトはそのままだけど、バスターかロングかで悩んでる」
「……何?」
「ショートは敵との間合いが上手く取れないから最初から無いんだけど、安定はロング?」
「いや、待て。何、新型?」

 小さく頷いて見せると、ブレンダンは青い目を伏せた。一向にこちらを向こうとしないので、勇気を出して覗き込む。「ブレン……?」名を呼べば、考え込む表情の彼がハッとしたように顔をあげた。

「いつからだ?」
「1週間前の任務でケガした時。検査したら、博士に呼ばれて」
「人体への影響は?」
「今の所ないよ」

 そうか、ならいい。とブレンダンは力の入っていた肩を落とした。それから、そうだな……とわたしの問いの答えを探し始める。

――カノンではなくて、わたし。

 こんなことでも、嬉しい。カノンの誤射を回避する戦術理論を構築することを止め、わたしの為にわたしの事を考えてくれている。回避の為とは言っても、四六時中彼女のことを考えれたらたまったもんじゃない。――恋をするって、とても汚い。

 それに気付けたのもまた、彼のおかげなのだけれど。

 それまではある意味、妄想に近い恋愛を繰り広げていたわたしが、欲に塗れ、自分でも「人間臭い」と思う程に恋することを真の姿を見た気がした。実際に神機使いというものは、一般とはかけ離れたところにいると思う。戦う為に得た力も、裏を返せば死に急ぐ事と同じなのだろう。そうすると、余計に愛されたくて満たされたくて、欲で雁字搦めになる。

「結局バスターも俺みたいな戦い方だと敵に張り付くからな。使うなら教えるが、ナマエはロング向きだと思う」
「ロングかあ……。あまり使ってる人いないから、この際試してみようかな」
「俺がチャージしている間に、斬る。離れる。クラッシュ。弾。上手くいけば、かなり使えるな」

 ……ちゃっかり、わたしとの任務で考えてくれる天然野郎をどうにかしてほしいよ、タツミさん。「離れておけば、カノンの誤射の巻き添えも食らわないしな」……この上げて下げる天然野郎を殴って欲しいよ、タツミさん。

 銀の髪が揺れて、また戦術論理を構築する為の準備に入る。こうなると、暫く誰とも会話を交わすことはないだろうと息を吐く。

「たまにはわたしのことも考えてよね」

 吐き捨てるように言った可愛くないわたしに、彼はあっけらかんと言うのだ。「いつも考えてるが……今更どうかしたのか?」――こんな彼にやられっ放しなのが頭に来るので、今日もジーナの元で作戦会議を行います。




使ですが魔です
(「いつも(戦術を考える時にはお前のことも含めて)考えているが、でしょうよ!何で言葉が足りないの!馬鹿、ブレンの馬鹿、好き!」「……そう(何この子可愛いわ)」)

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