風呂掃除をしていて、なぜか「この水は何処に辿り着くんだろう」と考えた。栓を抜いて暫くすると、渦が小さい穴に吸い込まれていく。水が捌けるに連れて、段々と大きくなる音がキュポンと弾けて水と共に消えた。


わたしは彼と他愛もない会話を交わしながら、ふとそれを思い出していた。きっかけは、たまたま風呂の沸いた知らせが鳴ったからかもしれない。それから、「水は下水道を通る」「海に流れ込む?」「どこかで綺麗にされてるのかな」などと、考えても見つからない答えを必死に探していた。

会話中、返事を疎かにしてしまったことから、「悩み事か?」と彼に似合わぬ言葉を聞いてしまった。
わたしは笑いたいのを我慢して俯きながら首をふった。視界に入ったのはジャージと缶ビールとつまみ。

「入ってる?」

フィンクスは軽く返事をして、ビールに口付けた。おかわりは要らないか?と勘違いしたらしく、本当は一口飲みたくて言った言葉だったから、少しおかしくなった。

「ううん、ちがくて」
「あ?」
「ビールちょうだい?」

パチリ、そのキツい目が瞬きした。きっと珍しいな、とかそう思っているのかと考えていたら、

「何かあったのか?」

心配されていた。普段飲まないと、やけ酒に思われるらしい。眉間にシワを寄せる彼はビールをぐいっと飲み干して「ねーぞ」と缶を降って見せた。

「あ」
「なんだよ、ねーからな」
「あー」
「……頭でもうったのか?」

フィンクスの顔がぐっと近づいた。コツン、額が触れあう。急な展開に、ついていけない。あれ、こんなに他人を心配する人だったっけ?

「何もないよ。強いて言えば排水口?」
「は?」

アルコールの匂いがした。それだけで酔ってしまいそうなのに、さらに顔が近すぎて悪酔いしそう。

「や、水は何処に行くかなあって。知らないし」
「くだらねえ」
「なんで?だって急に思ったもん」
「俺との話の最中にか」
「んー」

ご機嫌斜めのようだ。額が離れて、今度は両頬に彼の暖かい指が触れた。つままれた。

「飲みたいって?」

その急な言葉を理解する前に唇が触れた。一気に口内まで貪られる。ああ、そういうことか。思ったときには、苦味が口に広がった。

いつもと違うのは、ただひたすら舌を攻めることだった。ぐっと、わたしの舌を引っ張り出して奪われる。苦い。ぶわっと体中に鳥肌がたった。ビールの炭酸の気泡が体の表面にでてきてしまったのか。なんて美味しくないんだろう。くらくらとアルコールが体をまわる。

アルコールだけではないのだけれど。

「ん、」

そのまま舌が空気に触れた。口に戻ると苦いだろうか、おそるおそる口を閉じた。

「……まず」

フィンクスは笑った。あ、きゅんってなった。なにその笑顔、反則。

「ビールだろ?」
「苦い」
「うめえじゃねーか」
「わたしが?」

ふざけんな。また口が塞がる。一瞬離れて、

「うまいかはこれからだろ」

恐ろしいことを言った。そのまま世界が反転する。視界には、服の中に早速手を忍ばせた彼がいた。

最中、考えていたことの結論がでた。
わたしの中心から溢れ出す水音が耳から離れなくなって、また思い出した水の行く先。




排水口に吸い込まれたのがわたしだとしたら、目的地に辿り着く前に死んでしまうのてしょう?