踏み出せば、世界は一転する
当時は何も知らずに「お前、医者なんだろ?」その言葉にただ肯定の意味で頷いた。垂れ目でやる気のなさそうな顔なのに、ひしひしと伝わる、有無を言わさない何かがあった。誰だろう? 同業者なんだろうけど。――要するに研究積めだったわたしは世間に疎かった。まさか、目の前の男がジン=フリークスだなんて名だたるハンターだとは思いもしなかったんだ。
「パリストンのお気に入りだって聞いたぞ」
「……それは、どうなんですかね」
「なあ、ちょっとオレと仕事しねえ?」
丁重に断る余裕など与えられず、がしりと掴まれた腕を痛いくらいにひっぱるものだから呆れた。なんだ、この人。すごく、無礼だ。「いや、あの」上げた声に返事をしない。「待って、仕事が」
「医者って苦しんでる奴救うんだろ?」
なら、なんでそこに籠もってんだよ。意味ねえよ。
わたしは開いた口を閉じた。何も、言い返せなかった。
彼と仕事を一緒にしていて、わたしがいかに無知かということを知った。世界は、大きくて謎ばかりだ。どうしてあんな木があるんだろう? どうやってこの生物は生活しているんだろう? 疑問はただただ湧くばかりで、尽きることがない。あれは? じゃあこれは? まるで子供が親に聞くみたいに。ジンさんはいつも溜息をつく。「お前なァ」そう、気怠そうに。それでも必ず、次には口の端を上げて言っていた。
──なあ、面白いだろ?