スウィート・ブランケット | ナノ









 特に何かの決まり事がある訳ではないが、週に1度はプリンを作ることにしている。冷蔵庫で冷やしているうちに、いつの間にか消えている理由は見当が付いていて、それはクロロが犯人だとも知っている。彼がわたしの作った料理やお菓子に文句を言う事はまずないが、それ以前に褒められた記憶も皆無に等しい。その中で、プリンだけは「うまいな」と唯一の反応が返ってきた食べ物だった。

 毎日だと流石に飽きるだろうか。そう思い、週に1度。クロロがいる日。

 彼に出会ってから多くの予想外とぶち当たり、現実の厳しさを思い知る。きっと、あの時までいた所が地獄で、ここが天国だ。と言ったら、クロロは笑うんだろう。馬鹿だと鼻で笑って、わたしから視線を逸らして、読書を再開するんだ。

 牛乳、グラニュー糖を温めながら、ふと考えていると「それ何ね?」と声がする。慌てて振り返れば、フェイタンが空のマグカップをわたしに突き出した。洗っとけ、ということだ。いつもは無言か、極力わたしを避ける癖に今日は声をかけられる。昨日のフォンダンショコラの件から、距離感が掴めないわたしは「プリンだよ」とだけを伝え、卵黄・バニラエッセンスとともにそれを混ぜた。

「団長が好きなやつか?」
「うん、そうみたい。食べたことある?」

 フェイタンはチッと盛大な舌打ちをして、わたしを睨む。何がいけなかったんだろう。泡が立たないように注意を払いながら混ぜ、茶こしに流す。こうやって、わたし達の関係せいもなめらかになればいいのに。漉したら、一層滑らかな口どけのプリンのように、何事もなかったかのように。

 ミルク瓶に液を流し込み、水の張った鍋へと入れる。弱火で蒸して、根気強く待つ。何するわけでもなく、近くに居座るフェイタンに少しだけ苛立ちを覚えたけれど、甘い匂いがそれを忘れさせてくれる。

 しばらく蒸して、膜が張ったのを確認し、冷蔵庫へと瓶を移すとフェイタンはコテンと首を倒した。青白く、細い首筋はまるで女性のようで、色気がある。

「あとどれくらい待つね?」
「冷えるまで。できたら持っていこうか?」
「ワタシのあるか?」
「うん、あるよ。今日は落とさないでね」

 素直に頷いて、この場を去るフェイタンに驚きを隠せない。「エレナ」後ろから名前を呼ばれ、振り返ると「クロロ」いつの間にか帰ってきていたらしい彼が近付く。

「プリン、冷えたら食べてね」
「少し早すぎたか。匂いがしたから来たんだが」

 クロロもか。とついつい笑いが込み上げる。「何だ、何がおかしい?」「ううん、出来たら持っていくから」先ほどと同じように返して、この場から追いやる。

 わたしにはこれくらいしかできなくて、でもこうやって側に置いてもらっている。本当はそれだけじゃあ足りないんじゃないかって、もっとやれることがあるんじゃないかって思い続けているけど、あの時より少しだけ縮まった距離。――早く冷めてよ、プリン。みんなの喜ぶ顔が見たいから。

 ほんのり苦いカラメルソースを添えて、届けに行こう。気に入ってくれるかな、おいしいと感想をくれるかな。口にしてくれるだけで、わたしの世界は幸せで満ち溢れるということを、覚えていてほしいの。

なめらかプリンの憂鬱


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