スウィート・ブランケット | ナノ









 「今日は何?」とひょっこり顔を出したシャルナークにフライパンを持たせ、炒めてもらう。暇じゃないのに……とブツブツ文句を垂れるので、「じゃあ、晩御飯抜き」と真顔で告げると、黙々と手を動かした。

「たまねぎしんなりしてきたよ」
「じゃあ、トマト缶いれてトマト潰して」

 切る時は涙腺を刺激して嫌になる玉ねぎも、炒めると食欲をそそる匂いが広がって堪らない。トマト缶、コンソメ、塩コショウと出来上がりはそろそろだった。

 その間に洗い物もだいたい終わり、炊飯器がピーと炊き上がりを告げる。「最後に生クリーム入れて、1分煮込んで完成」平たく大きなお皿にご飯を盛りながら、様子を伺うと、うんそろそろいいかんじ。

「トマトクリームライスです!」
「エビも入ってるし、なんか美味しそうだね」
「フェイタンといえば、黒と赤。黒と赤と言えばハヤシライス……と思ったけど、トマトクリームにしてみた」
「……基準は団長じゃなくて、フェイタンなんだ」

 シャルが瞬きを数回してコチラを見る。「だって、フェイ何も食べないもん」パセリを散らしながら答えると、シャルナークは笑った。

「確かにね。自室で何かしらは食べてるみたいだよ。林檎とか、そんなかんじ。基本はコーヒーみたいだけど」
「バランス悪すぎ! 許せない!」
「あまり突っ込むと切れるから、程ほどにね」

 有難い忠告を無視して、お盆に彼用の晩御飯を乗せていく。サラダ、フルーツカット、ミネラルウォーターとこれだけあれば、十分だろう。シャルナークは既に自室に持っていく準備をしているし、他の団員も匂いにつられて気付く頃だろう。だいたいはセルフで食べてもらっているので、問題ない。

 薄暗い廊下を歩き、その突き当りに位置する部屋で立ち止まる。両手が塞がっているので、「フェイー、ごはーん」と声を上げると、中から物音が聞こえた。しかし一向に返事はない。

「晩御飯、持ってきたよ」

 更に声を張ると、ドアが少しだけ開く。「いらない」バタン、閉じる。……いつもの事だけれど、やはり慣れない。ひたすら腹が立つ。

「じゃあ果物だけでもー」
「足りてるね」
「じゃあ、サラダ」
「……しつこい」

 そういったやり取りを暫くしていると、「フェイ食べないなら、もらってっていい?」とシャルナークがやって来る。

「さっき盛ってたじゃん」
「食べたよ。お代りいったら、もうなかった」
「……10人分だったのに。あ、フランクリン帰ってきてたんだ!」
「ウヴォーがいないだけ、マシだけどさ。フィンクスも食べてたみたいだし。……だからちょうだい?」

 コイツ、わたしが誰の為に晩御飯を作ったか知ってて言っている。「……シャル、酷い」ポツリ、呟くと彼は心外そうに顔をしかめた。

「本当にそう思ってる?」
「ごめん、嘘。なかったことに、」
「いつも美味しいって思って食べてるよ。有難く思ってる。それが、酷い? 食べてくれないことよりも酷い?」
「やめて、シャル、お願い」
「……エレナは、少し周りを見た方がいいと思う」

 サイアクだ。シャルナークはお盆を奪って去っていく。扉の向こう側でフェイタンは何を思っただろう。

 押し付けるわたしを、嫌いになるのは構わない。ただ、それでも……。食べて欲しいんだ。感想なんていらない。食べて欲しい。食べる喜びを知って欲しい。それ以外、わたしに振り向いてくれる時間なんて、1つもないだろうから。

香しきバニラエッセンスに毒される


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