スウィート・ブランケット | ナノ









 背伸びをしてギリギリのところに位置する物干し竿に、やっとの思いで洗い立てのシーツをかける。洗濯機など置いていない廃墟では、手洗いが一般的であるが1人でこの量は正直堪える、とエレナは溜息を吐いた。別に嫌いではない。汚れが落ち、真っ白なシーツが太陽に照らされる光景を目にした瞬間に、達成感に見舞われる感覚は好きだ。しかし、この量は嫌気が差しても文句を言われる筋合いはない。1人、また1人とぐしゃぐしゃに丸め込んだ洗濯物を出していくのだから、困ったものだった。

 時折、「大丈夫?」と顔を出してくれるシャルナークは一見、天使のように思えて悪魔である。一番の洗い物の量に、さらには見知らぬ女物の下着まであるのだから無神経だ。

「エレナ」

 名を呼ばれ、声の方へと振り返ると主が立っていた。用事があるのだろう。スーツを着込み、髪を降ろしたクロロ=ルシルフルは、いつもの近寄りがたい雰囲気を一掃している。何事だろう、と一瞬ぐっと力の入った体を解けば、エレナも自然と笑みが零れた。

「出てくる。欲しいものはあるか?」
「ううん。大丈夫。いってらっしゃい!」

 一度、出て行ったきり暫く帰らなかったことが喧嘩の発端になりエレナに喚かれ、厄介な数日を過ごしてからクロロは行き先までは告げずとも断りをいれるのが日課となった。彼女は大層満足げに頷き、大きく手を振る。「ご飯作って待ってるねー!」笑顔で送るエレナを尻目に、周りから「いつまで新婚気分だ」と冷やかされる原因の元に大きな息を吐いた。


***

 クロロに拾われてから、もう3年が経つ。残忍で、冷酷で、美しい人だったと今でも思う。無表情で人を次々と殺していくのだから、わたしも死を覚悟した。泣くこともなく、ただその瞬間を待った。

 彼が目の前でナイフの先端をわたしの首元に宛がった時、「無意識……か?」その手が止まった。クロロは面白い、と笑った。さっぱりわけがわからずに、抵抗するでもなく彼に着いていくこととなったが、死ぬ間際に精孔が思い切り開いていたようで、そのオーラの量が尋常ではなかったらしい(留めることもなく、ひたすら漏れ続けていたのだけれど、死ななくて本当に良かったと思う)。

 その流れで、今に至る。幻影旅団ではないが、彼らの家政婦のようなそんな役割を担い、全うしている。ご飯に、掃除、洗濯……と、どれも得意ではなかったが、慣れた。周りはこんなことでも感謝をしてくれるし、作ったご飯も美味しいと食べてくれる。……フェイタンを除いて、だけど。


「フェイタンの分もあるんだけど」
「いらないよ。いつもいつも迷惑ね」
「食べないから小さ……怖い、睨まないで」
「団長の女じゃなかたら、すぐにでも殺してやるね」

 ここで1つ訂正をしたい。わたしはクロロの女ではない。家政婦である。恋人同士のようなことを一切したことがないのに、ただ一緒にいるだけで団員はそう認識しているらしい。現にクロロは性欲は外で満たしてくる。部屋が汚れるのが嫌だと、そう言っていたことがある。

 しかし、それを否定しないのは、こういう一般人を良く思わない彼のような存在がいないわけではないからだ。「団長の女=手を出さない」というのは、蜘蛛の暗黙の掟であり、クロロはそれを黙認している。なので、わたしはそれに守られているのである。

「早く飽きられて捨てられるいいよ。瞬殺ね」
「……そうならないように女磨きます」

 こうして今日も、フェイタンのために作った中華丼とスープは手をつけてもらえずに、フィンクスの腹に収まったわけだが、わたしの奮闘はこれからも続くのだった。

その男は驚くほどにスパイシー


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