それってつまりどういう意味?
「ちょっ………達海さん待って下さいまだ質問に答えてません!」
憧れの職場で働くようになって早三年が過ぎた。最初はミスばかりで迷惑をかけてきたけど、これでも一応、仕事には慣れてきたつもりだ。
サッカーが好きで、そのよさを皆に知らせたくて就職した記者という仕事。
私がそれなりに遣り甲斐を感じはじめた時、
達海猛は帰ってきた。
「また逃げられた……」
運動がさほど得意ではない私は、ETUのクラブハウス内で息を整えていた。余談であるが、3つ下の私の幼馴染みも選手として活躍している。
「大変そうだな、名字さん」
「緑川さん、お疲れ様です………緑川さんからも何か言って下さいよー」
「はは、無理なんじゃないか?あの人は人の話を聞かないから」
「デスヨネー…………」
達海さんが帰ってきてからというもの、取材は忙しくなった上に情報が得られなくなってしまった。
「もー、ボイコットしたい!けど達海さんのサッカーは好き!」
悔しいことに、私は達海さんの現役時代、大ファンだった。達海さんが無名の時から応援していた。
一気に有名になった時、寂しい思いをしたこともある。
「名字さんは本当に達海さんが好きなんだな」
「ありがとうございます!達海さんも好きですが、緑川さんも好きですよ!」
「ありがとう」
緑川さんに頭を撫でられてちょっとドキドキしていたら、幼馴染みがひょこっと顔を出した。
「ドリさんセクハラは駄目っス!名前も!」
「恭平!まさか練習サボってるんじゃ………」
幼馴染みは、世良恭平。最近FWで活躍してる選手だ。というか年下の癖に遠慮がない。
「んなわけねーだろ!休憩だよ!」
「そうかそうかとりあえず君はその口を直しなさい!」
「わー!ごめんなさい!名前様!」
「なんか腹立つ!」
「はは、二人は仲がいいんだな」
緑川さんはくっ、と笑った。ていうか長い間取材してきたけれど、緑川さんの笑顔なんて初めてかもしれない。
「恭平のせいで!緑川さんに笑われたじゃない!」
「知らねーよ!」
恥ずかしい!これも全部恭平のせいだな!
「ほんと、仲いいよなー。でももうすぐ休憩終了だぜ、世良」
「うわあっ!監督!?」
「達海さん!?」
突然背後から声が聞こえたものだから変な声が出てしまった。ていうか!チャンス!
「ドリも、名前にセクハラしない」
「達海さんも充分セクハラじゃないか?」
緑川さんの視線を辿ると、達海さんの手は私の腰をしっかり捕らえていた。
「えっ!?ほんとですよ何してるんですか!」
「俺はいいの。とりあえず二人は練習に戻るー」
う、といった感じで恭平は練習場に戻っていく。
緑川さんは「じゃあまたな、名前ちゃん」と頭を一撫でして去っていった。
………ていうか、「名前ちゃん」、?
「ドリは危険だなー……世良も危ないな……」
「あの、何の話ですか?スタメンの話ですか?というか手をはなして頂けると」
本当に勘弁してほしい。一応女であり憧れの人だ。現にちょっとドキドキしてるし。
「あ、取材だっけ?何に答えればいいの?血液型?誕生日?彼女の有無?」
「あの別にプライベートの話じゃなくてですね…」
「彼女はいません。狙ってる子はいるけど」
「えっ………」
誰だろう………まさか広報の永田さん!?
「…………絶対気付いてないよな」
それってつまり
どういう意味?
(まるで私が気づいていないみたい)