情けは人のためならずとは (2/5)


俺が、奇妙なあいつに出会ったのはつい先日のことだった。
いつも通りの巡察で、いつも通りに道を歩いていた時、前を歩いていた俺はとん、と何かにぶつかった。

「あっ……!すみません」

笠をかぶったそいつは、直ぐに頭を下げた。少しだけ京の訛りが入った言葉。どうやら怖がらせてしまったらしい。

「気にすんな、大丈夫か?」

そう問うと、ええ、貴方様のおかげで…と笑顔で言ったものの、顔をすぐに暗くし傾いた。
どうした、と言うとぶつぶつと……袖触れ合うも多生の縁というし……と呟き、いきなり手を握ってきた。おいおい、俺に男色の気はないぜ。

「貴方を優しいお方とお見受け致します。どうか、あのお子を助けてやって下さいませんか……?」

俺は正直面食らった。当たり前だろう、まさか子どもを助けてやってくれと言われるだなんて誰が想像できる。……こいつがさしたその子どもは、木から降りられなくなっているらしい。

「本当は自分が行ってあげたいんですが……いかんせん自分を警戒しているようで………」

おねがいします、と頭を下げるものだから慌てて頭を上げさせた。

「気にすんな、よし、ちょっくら行ってくるか」

木に上って子どもを降ろした後、子どもはありがとう、といって足早に母親の元へ駆けていった。

「本当にありがとうございました!是非、お礼をさせてください!」

ぎゅっと俺の手を握りきらきらとした目で俺を見ている。女だったら可愛いのに。と少し思った。

「礼には及ばねぇし、お前さんにそこまでする義理があるか?」

そう尋ねれば、いいえ、という声がかかった。

「でも、自分がお礼をしたいんです。……迷惑、ですか?」

ああ駄目だ。男であろうと女であろうと、こういうのには滅法弱いのが原田左之助である。




「おう霰、帰ったか!」

こいつに連れられてきたのは、俺や新八がよく来る小料理屋だった。

「はい、帰りました」

にこりと笑って暖簾をくぐるこいつ。俺も続いて店のなかに入る。

「まだ名前、聞いてなかったな」

「そうですね、自分は雲居霰といいます」

どうぞよしなに、と柔らかく頭を下げる雲居。

「霰、原田さんとはどこで知り合ったんだ?!」

と店主が問うと、雲居は

「さっきお子を助けていただいたんです。自分がお礼をしたくて連れてきました。」

と笑った。

「そうか!それじゃあお前さんに調理は任せたぞ!原田さん、霰の料理は絶品だからな!」
といって店主はバシバシと俺の背中を叩いた。

「楽しみにしてる」

そう笑うと雲居は目を見開いて、足早に奥へ向かった。

「あいつ照れたな…」

にやにやと笑う店主に、いつもああなのかと尋ねると、そうだと返ってきた。そうか雲居は照れ屋か。というか笠、被ったままだったな。




結果を言えば、雲居の料理は絶品だった。酒を中心に考えられたものであったが、とても美味しかった。

「旨かった、ごちそうさん」

そういって背中を叩く。笠を被っているのはどうやら髪の色が気になるらしい。別に気にしないのだが。

「ありがとうございます」

そういって笑う雲居は照れているようだった。

最後に近づいて耳打ちしておいた。

「今度は、髪見せてくれな」

ひらひらと手をふる俺は、雲居が真っ赤になっているのを知らなかった。




一、情けは人のためならずとは
(なっ…なんやあの人…!)




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