星に呼ばれたマーメイド
編入初日。私は3年だというのに真新しい制服に身を包み登校した。
やはりプロデュース科は形だけ作られているようなもので、アイドル科とほとんど同じように過ごすらしい。セキュリティが頑丈でやはり止められてしまった。
朝から災難だな、そう思いながら3Aと書かれたクラスの扉の前で一呼吸。ガラリとドアを開けると、視線が一斉にこっちを向いた。
「待ってました、女の子!」
俺羽風薫、よろしくね〜と真っ先にやってきたUNDEADの羽風に苦笑しながらよろしくお願いします、と握手をする。
「硬いな〜。もっと砕けて薫くんって呼んでもいいんだよ?」
ウインクを決めながら言うものだから、少し笑ってしまった。その笑顔だよ!と羽風が笑う。
彼の後ろから、包帯が巻かれた手がにょきっと飛び出した。
「俺は燃えるハートの守沢千秋だ!よろしくな!」
にっこりと笑って握手をぶんぶんするのは、流星隊の守沢。編入するにあたって、有力なユニットのメンバーは全て顔を覚えている。
……Valkyrieの斎宮も、このクラスだ。けれど、今はいないみたいで。その後入ってきた瀬名には睨まれ、蓮巳に怒られ、私はあてがわれた席についた。
昼休み。外ががやがやとしているのが気になり外へ出てみた。どうやら、ドリフェスが行われるらしい。……B1という、最低ランクで成績にもならないドリフェス。私は資料としてたくさんのドリフェスを見たが、こんなに盛り上がっているドリフェスを見るのは初めてだ。
きらきらとした目で見ていると、声を掛けられた。
「あっ、もしかして、編入生の先輩っ!?」
「えーっ、編入生の先輩っ?!」
「む、もしや、貴方は……」
眼鏡の子に、オレンジの髪の子。
そして彼は1度だけ、あのステージで会ったことがある。
……日々樹の隣にいた、彼。
「こんにちは。ええと、ごめんなさい。私最近出来たユニットのこと、あまり知らなくて……彼女は、同じプロデュース科の子だよね。よろしくお願いします。」
彼女はぺこり、と頭を下げた。続けて彼らが自己紹介を始める。
「ふむ、そうだな。俺たちはこの3人とあと1人、4人でTricksterというユニットに所属している。よろしくお願いする、先輩。俺は氷鷹北斗という。」
「ああっホッケ〜ズルいぞっ、俺は明星スバル!よろしくお願いしまっす☆」
「乗るよっ、この自己紹介の流れに……!遊木真です、よろしくお願いします!」
一斉に頭を下げるものだから、私は慌てて頭をあげてほしいと伝える。この子達も、きらきらしている。どんなユニットよりも、きらきらと輝いているように見えた。
挨拶を交わしていると、どうやらドリフェスが始まるらしい。UNDEADの大神に紅月の鬼龍。……紅月の彼は、一応生徒会の勢力に属するはずだが、大丈夫なのだろうか?
圧倒的に輝くステージが始まる。力と力がぶつかり合い、荒っぽく輝く。形式じみた公式戦なんかじゃ見られない、心から楽しめるステージ。
ずっと暗い海の底にいた私には、……少し眩しすぎるかな。
ステージの場を離れようとすると、険しい顔をした蓮巳とすれ違った。後ろには気付かれないように動く生徒会。
……なるほど、そういう事か。複雑な心境で見ていると、赤い髪の子と目が合った。頭を下げられたので、こちらも返しておく。
さて、巻き込まれる前に退散だ。
それから、数日経ったある日。S2が開催されるとの事で私は勉強のため講堂の入口に立っていた。入口の可愛らしい子に不思議そうな顔をされたが、通してもらえたので大丈夫だろう。そう考え席につく。
異様な空気だ。アイドルのステージを見に来たとは思えない、とても義務的な雰囲気。
まずは紅月のステージが始まった。伝統芸能をテーマにした、和の雰囲気の曲。それぞれ3人が個性を生かしまとめあげ、これぞ完成されたアイドル!といったものを作り上げていた。だが、周りの生徒の目は暗いまま。そして紅月の演目が終わると、私は今の現実を目の当たりにしたのである。
……ほぼ全員が、潮が引くように講堂から出ていったのだ。
明星が必死に止めようとしても、誰も聞く耳を持たない。それどころか、冷ややかな目を向けるばかりだった。
舞台に立ったRa*bitsを、誰も見ることもないまま、残ったのは明星と転校生、私。それだけだった。
Ra*bitsは、私達3人にむけて全力でパフォーマンスをしてくれた。まだまだ発展途上だけれど、心から応援したくなるアイドルだった。
ああ、駄目だ。泣きたいのは彼らだ。
どうしてこんなに輝ける子たちが、私と同じ思いをしなければいけないんだ。
サイリウムを握りしめる手が固くなった。
明星は言う。
「転校生、編入生の先輩。力を貸してほしい。こんな制度、ぶっ壊してやりたい!」
そして私は、顔をあげる。
「やってやろう。」
それがたとえ、彼に歯向かう行為だったとしても。私は短剣を突き立ててやる。
星に呼ばれたマーメイド
ー彼らをこんなところにはいさせない!