目を閉じてしまいたいの

バン、と机に台本を叩きつける音がした。
私が立てた音だ。

「いいかげんにして、何度言わせるつもりなの……!!」

青筋を立て怒鳴るが、彼女は素知らぬ顔だ。
久しぶりに練習に来たかと思えば、適当に済ませようとしている魂胆が見え見えで気分が悪い。態度を変えない私に、彼女は徐々に苛立ちを見せた。

「あんたがやれば?あいつと仲いいんでしょ?」

「はぁ?!」

彼女の提案に目を剥く。
元々は彼女がやりたい、と言って当てはめた役だ。それをこんなふうに扱われては困る。
頭が痛い、と頭を抑えた。私の苦手なタイプだ。
……日々樹は今日部活の方に行くと言っていた。日々樹が来ていなくて正解だったのかもしれない。

「あたしさあ。あいつ嫌いなんだよねー。五奇人?とかいって、むちゃくちゃだし、理解出来ないし。大体アイドル科のくせに演劇科に来てるってのもねえ?」

そう嫌味ったらしく大声で吐き出された言葉。
ぶちり、と私の頭が切れた音がした。

「……アンタに日々樹の何がわかるのっ、理解出来ないじゃなくて、理解しようとしてないだけでしょう!!」

私が大声をあげても、彼女はつまらなそうに髪をくるくるとしていてこちらの言葉なんて聞く気もない、と言った様子だった。けれど、私が放ったこの言葉には明らかな嫌悪を見せた。

「……ほんと、あんたのそういうところ大ッ嫌いよ。あたしこの演劇降りるから。せいぜい頑張れば〜?『演出』さん?」

彼女はそう言ってヒラヒラと手を振りながら帰ってしまう。
しん、と練習室が静まり返る。ヒソヒソと声が聞こえた。

ーー帰っちまったな
ーーどうするつもりなんだろう
ーーまさか、なまえがやったりなんてしないよな
ーーそれはないだろ、だってあいつは……

バン、と再度机を鳴らす。ヒソヒソ話をしていた彼らがビクリとなった。

「……私が、やる」

公演まで2週間を切ってしまっている。幸い、彼女と私は背格好もそんなに変わらないから衣装の手直しも必要ないだろう。

台本が、ぐしゃりと音を立てた。


「……なまえが演劇を?」

それは楽しみですねえ、と今までの話を聞いた日々樹は笑った。そこではないと思う。
はあ、とため息しか出ない私を見て、
何がそんなに心配なのですか、と問われる。

「……少し、1年の頃にね」

思い出したくもない過去だ。けれど、演劇をやる以上……避けられないことだ。
頭が痛い、とそう考えているとふいにぽん、とお菓子を出された。

「疲れた時には甘いものをどうぞ……☆」

そう言ってクッキーを差し出してくる。
……ほんのりした甘みを感じながら、目を瞑った。


目を閉じてしまいたいの
ーこれは避けられないことだけれど、今だけは現実から目をそらしていたい

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