色のないおかえりをあげる

はぁ、と知らぬうちにため息が出る。今日は散々だった。
反りの合わない先生との授業、やる気のない生徒。イライラしてしまい大声を出せば、こちらが睨まれる、そんな授業。
……こんな授業、受ける意味なんてない。
そう思っていても抜け出せないのが事実だ。

夢ノ咲は腐敗している。
そう言っていたのは誰だったか忘れてしまったが、なにもアイドル科に限った話ではないのだ。
演劇科にも、その影響が出てしまっている。

……私は本気なのに。
時代が、学校がそうさせてはくれない。
ふぅ、と鞄を置くと窓の外の景色を見た。
目に映るのは変わりない日常の風景、澱んだ空気。私はとても息苦しい。
まるで深海にでもいる気分だ。
私は人魚姫なんかじゃない、そばにいる口うるさいザリガニあたりなんだろうけれど。
この空気を変えたくても、私じゃ変えられないのだ。私は地上に行く術を持たない。
いつかきっと、誰かが。
……そう思っているうちはきっと難しい。
誰かがこの空気を変えてくれるのを待つしかない、私は愚か者だ。
あの『ユニット』みたいに、皆が完璧であればいいのに。そう、思ってしまう。
『彼ら』は、私の概念を変えてくれたから。


「日々樹は何がしたいの?演劇?アイドル?」

少し前に1度、そういった事を聞いたことがある。ただ、少し気になっただけだ。
そうすると彼はぞっとするような顔で、

「さて、なんでしょう」

と呟いた。見たことのない表情と、聞いたことのない声色だった。
私はぞくりとして、彼を見た。けれど、一瞬にしてその表情は笑顔に変わっていた。

「今は、あなたの演出で演劇をするのが一番楽しいですよ……☆」

「……そう」

もっと日々樹の表情を見たかったのだが、残念だ。彼が今日来た目的を聞くと、私に会わせたい人物が居るという。
……Valkyrieというユニットの、斎宮という人らしい。彼の世界観は素晴らしい、と笑う彼を見てちくりと胸が刺された気がした。
私だって、そんな表情をさせてみたい。
アイドルにさほど興味がわかないし気は進まないが、彼らのライブを見に行ってみることにした。

結果的にいえば、圧倒された。
完璧なステージ、完璧な采配、完璧な歌。
どれをとっても、完璧としか言いようがなかった。
彼らの虜に、なってしまった。
……彼らの世界から出ていってしまうことがとても惜しい。
ぞわぞわと私の中を駆け巡る快感に浸っていると、日々樹が腕を引いて講堂から出た。

「おかえりなさい」

感傷に浸っていた私を嘲るかのように、
暗い顔で、彼はそう呟いたのだった。



色のないおかえりをあげる
ー彼らのライブを見たあとの世界は、余計に澱んで見えた

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