あの人が息をする場所へ

それからかなり時間は過ぎたように感じた。でも季節は変わっていない。TricksterはUNDEADや新人、2winkの協力により紅月を打ち負かし、生徒会の支配は崩れたかに思えた。
……そんな喜びも束の間だった。生徒会長の彼、天祥院が帰ってきたのだ。
彼が帰ってきて先ず始めとばかりにやったのはTrickstarの解散命令と、私を手中に引き入れる事だった。
今、彼……日々樹は天祥院と同じ、fineに所属しているらしい。天祥院はにっこりと笑いかけると、私にこう言った。

「渉はこちら側だ。意味は分かるね?」

私は混乱している彼らを置いて無言で生徒会室を出た。きっとまた近い内に私はここに呼び出される……いや。天祥院とは同じクラスだから、クラスで毎日のように言われるのかもしれないが。
……彼の思い通りにはならない。私はあの時からそう決めていたのだ。徹底的に避けてやる。……無駄な抵抗なのはわかっているから、せめて。私は今、彼らの力になりたいから。
私はビデオが再生できる部屋と彼らが練習できる部屋を借りることにした。

DDDという大規模なドリフェスが開催されると決まり、Tricksterがバラバラになってしまって数日後。守沢が話があると私の居場所を見つけ声をかけた。居場所を転々としているため、よく分かったねと伝えると奏汰が教えてくれたと笑った。
噴水の中で笑う彼……深海。後になって分かったことだが、彼もまた奇人の1人だったらしい。私の恩人の1人だ。

「それで、守沢は何の用だったの?」

「こいつを見てくれ!」

と、彼が出したのはTrickstarの衣装。……ただ少し小さめなような気もするが。まさか、明星が好きすぎて守沢がコスプレするのか?サイズがあっていないんじゃないか?と困惑しながら彼を見ると、俺が着るんじゃないぞ。なまえが着るんだ!と豪快に笑った。

「聞いたがお前は演劇科で男役もしていたそうじゃないか!転校生が拵えて着る予定だったんだが……流石に難しいかという話になってしまってな」

なるほど、と呟く。彼女は言い方は悪いが素人だ。その点私は演劇科で何度もやった事があるから……そう思って声をかけてきたのだろう。
ただ、心配な事が一つだけある。私の……持病のようなものだ。それを知ってか知らずか、守沢が続ける。

「踊っているだけでいい!歌までやっているとお前に負担がかかりそうだからな!」

はっはっは、ちなみに明星と転校生には承諾を得ているからなまえ次第だな!と彼は笑う。
断るなんて選択肢はなかった。わかった、彼らにも伝えておいてと笑う。

「必ず彼らを連れ戻すよ」

そう笑うと守沢も嬉しそうに笑った。

そしてDDD当日。私はTrickstarの衣装を来て明星と共にステージに立っている。転校生は関係者の近くで見守っているようだ。
対戦相手はKnights。……だが、明らかに1人足りない。そしてKnightsに入ったという遊木の姿も見当たらないのだ。
話を聞くと、どうやら遊木は瀬名に監禁されているらしい。瀬名はどうしてそんなことを、そう思っていると明星が駆け出した。

「俺、ウッキーを探しに行ってきます!」

分かった。そう答えると私はステージに立った。少しでもソロをやってますという感じで場を持たせなければならない。
観客を盛り上げつつ、ダンスを披露しているとKnightsのメンバー、朱桜がこぼした。

「とても綺麗ですね。Marvelous、と言わざるを得ません」

アイドルから見ても綺麗なら大丈夫だろう。観客の拍手も聞こえてくる。少しだけあの時の公演を思い出した。ふと見ると居たのは、確か生徒会にいた赤い髪の、衣更……だったか。彼は私……というより誰かがTricksterの衣装を着て踊っていることに困惑しているようだ。ちょいちょい、と合図をして出てきてもらう。
近づいたことで誰か分かったようでビックリしていたが、今はそれどころじゃない。彼もそれは分かっているようで、パフォーマンスを続けた。

結果的に、無事に遊木は助け出すことが出来、Knightsに勝利した。私は彼らが帰ってきてから交代して出ることは無かった。
衣更や遊木が何か言いたそうにしていたが、笑って誤魔化しておく。……まあ後で彼女が説明してくれるだろう。
もう、私がいなくても大丈夫そうだ。衣装を脱ぎ制服に着替え、彼らから離れる。私は本来、あの輪にいてはいけないから。
ざり、ローファーで地面を蹴った音が酷く鮮明に聞こえた。

「そんな顔をして、何を見ているの?」

そう問うと、氷鷹は顔を上げた。夢を諦め、傀儡になるしかないといったような目だ。
彼が見つめる先のステージでは、流星隊とfineの勝負が行われている。
三奇人である深海も出ているからか、fineも全員で迎え撃ったようだ。少ない天祥院の体力を少しでも減らそうと考えたのかもしれない。

「俺は……」

氷鷹が何かを言ったようだけれど、歓声に埋れて聞こえなかった。私の声も聞こえないかもしれない。だけど、伝えたかったから。

「彼らは、君を待ってる」

氷鷹が目を見開いた。私は彼の肩を叩いて、その場を後にしようと歩き始めた。

どんどん日も傾き、私が次のステージを見に行こうとするといきなり目の前に鳩が出てきた。鳩は私を導くように、ゆっくりと飛行している。
この鳩は。きっと彼の元へと連れていこうとしている。
私は、ただ鳩を追いかけるために走った。


あの人が息をする場所へ
ー私も同じ場所に立てば何かが見えてくるのかもしれない

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