片足だけの休日


真剣師に休日はない、といったのはどこの誰だったか。ぼんやりと考えながら路地裏を駆け巡る。遠くから怒号が聞こえてくる度、ああ嫌だ嫌だと首を振る私は、今現在ヤのつく人たちに追いかけ回されている名前というものである。

「これだから頭のかったあい大人は嫌なんだよねぇ」

はー、と屋根の上で一息ついてあたりを見回すと、あらいやだ。どうやら私は囲まれてしまっていたようだ。

「名前を見つけたぞ!!!やっちまえ!!!」
「だからさーなんで将棋に負けたくらいで追いかけてくんのさー」
まぁ掛け金は確かに多かったよ?だけどこれは勝負なんだから仕様がないじゃん。

からっと笑うとあちらさんはさらに怒ってしまったようだ。私はどうやら人を苛つかせる天才らしい。

あちらさんの包囲網をするりと抜けて明るい所に出たら私のヒーローがいた。

「わぁい強い澄野さんじゃあないですか!!!」

「名前か……また追われているのか」

お前も大概だな、と呟く澄野さんの手には、刃の折れたナイフがあった。

「澄野さんも大概ですよぅ」

にしし、と笑った私に嫌な予感がしたのか澄野さんは逃げる体制をとっている。おお、強い澄野さんですら逃げようとする私最強じゃないか?

「匿ってくださーい!」
その広い広い胸に飛び込んで低ーい声で逃がしませんよ………というと、はぁ、とため息をつかれた。ええー……酷い………

「お前が俺達に協力するならな」
「ええー……」
私はまだ死にたくないですよーと言うとガキだなと言われたので叩いておいた。

「さぁ、一緒に逃げましょう!!!」
やっぱり、休日は今日も訪れてはくれない。


片足だけの休日
(澄野さん殴らないでー!)

title.誰そ彼

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