夢か現か幻か | ナノ
What is a heroine?
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駆け足で現場に急行すると、すぐさま騒ぎの中心地に到着した。市民の中心に立つのは、一人の男。予想に反して、坂田金時が得物を構えた市民に囲まれている。しかし、どんな状況であれ、警察のやる事は変わらない。ハウリングがやかましい拡声器を片手に、送話器にがなる。

「坂田金時の呼びかけに応じて集合した市民に告ぐ!法によって定められた許可証を提示せよ!道路使用許可のない集会は法律によって禁じられている!許可なき集会の場合は、凶器ないし凶器に当たるものを捨て、直ちに解散せよ!」
「お主は」
「なんだポリ公か!?」
「許可証だァ?んなもんねーよバーカ!!」
「真選組衛生隊隊長、桜ノ宮すみれだ!今あたしの事バカって言ったそこの浪士!顔覚えたぞ!」
「すみれ先生、なんで」
「繰り返す!この場に集った市民は直ちに解散せよ!!後1回の警告の後に解散しなければ、道路交通法違反及び凶器準備結集罪及び多衆不解散罪で全員を逮捕する!」

呼びかけを行ったものの、市民が解散する様子はない。3回解散命令を出して解散しなかったら現行犯逮捕できたハズ。第一、許可がなければ道交法違反だし、凶器ないし凶器に当たるものを持って集合してるんだから凶器準備結集罪だ。今でも完璧に逮捕できる。だが、『ちょうど』拘置所は足りてない。できれば自主的に解散してもらいたい。……そこの桂以外は。

「ああ、旦那。ウチの上司からアンタに伝言です。『ウチの衛生隊長は、易々と傷つけられるようなヤワな鍛え方してねェ』……ですって」
「記憶を取り戻したら速攻でパシリに使うたァ、鬼の副長は伊達じゃねェって事か」
「そのようです」
「てめェ、銀時の味方かと思えば……。どっちの味方だ?」
「私は警官です。つまり、法の番人です。街の平穏を乱す連中は金だろうが銀だろうが全員逮捕に決まっているでしょう。もちろん、旦那、アンタにも屯所まで同行してもらいますよ。……そこの桂もね」
「ハブるのを非難する癖に仲間には絶対に入れないどっちつかずの中立ヅラかよ!お前みたいなのが一番う――」

白髪頭に一つ蹴りを入れたその直後。ストパー野郎から静電気のようなものが放出された。それはたちまち閃光になり、奴を囲んでいた群衆を弾いた。洗脳波だ。自分が対象に入っていないのは、やっても無駄だと思われたからか。

憤る旦那。勝ち誇る金髪。ゆらりと立ち上がったのはまた洗脳された群衆。数が多いな。いくら浪士が混ざっているとはいえ、市民まで斬ったら大問題になる。つーか旦那は戦えるのかこの状況で。

勝ち筋を探す間、御託を並べていた金が号令をかけ、主人公の傀儡となった市民が襲いかかる。迫る凶器。旦那は丸腰。戦えるのは自分だけ。前に出て、腰を落とす。大抵掃除された戦場がメインだ。ここまで大多数を相手にするのは、あまり経験がない。

鯉口を切り、鞘から刃を出す瞬きほどの時間。その間に群衆の得物は全て破壊されていた。

「消せるもんなら」
「消してみろ」
「我らが胸に刻まれしは」
なかまと共に闘った鋼の記憶」
「魂につき立つ」
「この銀の剣――折れるもんなら、折ってみやがれい」

木刀の切っ先と鋭い眼光が睨むのは金色。群衆から守るように立つのは催眠波を受けたと思った5人。運が良いのか悪いのか、桂までいる。敵側だったら容赦なく叩き斬ってやったものを。

仲間に促され、旦那は囲いを飛び越し、坂田金時めがけて木刀を振りかぶった。

さて、あたしも自分が為すべき事を為そう。

「これは最終勧告である!直ちに集会を解散せよ!……解散しないな。ヨシ!多衆不解散罪その他諸々で全員逮捕だァ!」
「やれやれ、お役人ってのは手続き踏まにゃなんねーから大変だねェ。俺もそうだったんだけどさ」
「君、警官なのに攘夷浪士と肩を並べていないか?」
「貴様法の番人を名乗りながら法を無視する無法の輩か!」
「あー、さっきの洗脳波のせいで攘夷浪士の顔がよく分からなくなってしまったー。だからうっかり浪士と共闘していても問題なし!ヨシ!!」
「それ現場猫じゃね?!」
「主はそれでも番人か!」
「はい!法の番人こと(チンピラ)警察でーす!以後お見知りおきを!」

鞘に収めたままの刀で市民を殴りつつ、名乗りを上げた。

*

それから何人タコ殴りにしたか覚えていない。だけど終わりは意外とあっけなかった。

細く、しかし高く空に上る光を見た。

かぶき町のとあるビルから放たれた光は、莫大なエネルギーの逃げ場を求めるように、高空までその光を伸ばした。誰かさん達が、光を抑え込んでいるのだろう。旦那と、この大乱闘に姿を表さなかった3人が。

ビルから出てきた彼らはふらりとどこかに行った。てんでんばらばらに、互いの事なんて覚えてないような顔で。

おそらくあの光は洗脳波の爆発だ。旦那がアレを道連れに自爆しようとしたのを、他の3人も一緒に受けたってところか。おかげで旦那は廃人を免れたわけだ。

彼らは万事屋に戻れるのかなと考えて、戻れるに決まってると結論を出した。なにせ、彼らには断ち切り難い縁があるのだから。

市民と結託して暴徒を鎮圧したのが先だったか、修理を終えて戻ってきたたまさんが洗脳を解いたのが先だったか。流石に疲れてたせいで覚えてない。深夜の直後に中番は酷いと思うんですよあたし。

全員その場で注意したという事にして、残りには目を瞑った。まあ、公共物を積極的に破壊しようとしてたわけじゃないし、多少はね?

桂と愉快な仲間達は気がついたらいなかった。この分だと応援を呼んで追跡しても無駄だろう。逃げ足の速い男だ。

今目の前には、万事屋の三人とお妙さん、そして首だけ出してあとは地面に埋まった坂田金時がいた。

普段の目と眉の間が離れた死んだ魚みたいな目に戻った旦那は、坂田金時の負けだと諭す。そして、たまさん、ついでにあたしに向き直った。

「たま、それとすみれ先生。俺は一度そいつに始末をつけた。そいつの始末はお前らに任せるぜ。煮るなり焼くなり好きにしろ」

たまさんがリアクションを起こすよりも速く、万事屋の年少2人が手足を地面についた。

「たまさん!!すみれ先生!!待ってください!!」
「どうかそれだけは勘弁してやってくれないアルか!!」

二人が言うには、洗脳されてしまったといえど、坂田金時を作ってくれと言ったのは彼ら自身である。そして、坂田金時は己のプログラムに、坂田銀時の代役を務めるという役目に忠実だっただけである、と。今回の事件は役目を全うしようと行き過ぎた結果だと。

全て事実であろう。自分もそれは理解している。それを知っていてくちばしを突っ込んだのはほかでもないあたし自身だ。あたしが招いた結果を他に背負わせる気はさらさらない。

「――とおっしゃってますが、桜ノ宮さんは」
「土方さんに言い渡された任務は暴徒の鎮圧。もうとっくにみんな解散している。与えられた任務は果たした」
「そうですね。ほぼ全員が厳重注意処分になりました」
「でも、アレだけの騒ぎになったのに手ぶらで帰ったら、あたしが脱走の罪でお白州に座らされる」
「そんな!!」
「では貴方はこの彼を破壊して回収したいと」
「ところがどっこい、そこのところは屋上で1号機の残骸を回収した事だし、なにより、真選組と旦那の仲ですし?きっと大目に見てもらえることでしょう」
「誰と誰が仲良しだって?」
「第一、あたしは対岸の火事に自分から飛び込んだ身の上ですので、彼を責める権利を持ちません。……という事で、あとはたまさんのご自由に。これより後の事象には、我々は一切関知しないので」

これ以上はあたしの出る幕じゃないだろう。連中に背を向け、久方ぶりに屯所の方角に足を向けた。が、言いたい事があったので、立ち止まる。

「ああ、そうそう。貴方はあたしをヒロイン失格だと言いましたが、その通りです」

「口は悪いし、性格も悪いし、人は殺すし、ボケのセンスも無ければツッコミもできない。設定だってブレブレ。しかも微妙に人間じゃない。きっと貴方から見れば、あたしはこの上なく歪なモノに見えることでしょう」

「ですが、あたしは前に進むと決めました。正しくなくてもいいと、自分を認めてくれる仲間と一緒に、真の道を探して、最後まで」

「だから、今は失格でもいいんです。進み続けた先で、少しでもマシなものになれるのなら」

そう。今日よりも明日。明日よりも明後日。そうやって人は歩を進め、たどり着いた先で何かを掴むのだろう。それがどれほど遥かなる道程だとしても、前に進み続ける限り、掴みたい何かに近づけるのだから。

言うだけ言って、今度こそその場から離れた。たまさんがあれをどうしようと、公的文書の中では洗脳装置を搭載した機械は破壊された事になる。サンプリングした波形も激戦の最中破壊された事にして処分を頼んである。万が一への備えに洗脳波へのカウンターも得た。犯罪者や為政者の手に渡ったらまずいものは闇の中に消え、世は全てこともなし、だ。

かぶき町を離れて清々しい気分で伸びをする。

「あー、久しぶりに屯所のお風呂入りたいなあ」

一人で一般家庭の湯船に浸かるのもいいけれど、貸切状態の大浴場の湯船に浸かるのも乙なものだ。酒があれば最高。

あとは久しぶりに誰かの作ったご飯が食べたい。一人暮らしをして初めて分かる、口を開けているだけで出てくるご飯のありがたさよ。

何より、屯所にはみんながいる。みんな荒っぽいし、ストッパーがいなかったら何するか分からない物騒な人達だ。でも、そんな彼らがいる日常がいつの間にか当たり前になっていた。

帰る場所がある。そこで待っている人がいる。大好きな人がいてくれる。それがどれほど嬉しいか。屯所が近づくに連れ、足取りは軽くなり、ついには走り出した。すごく疲れているけれど、一刻も早く自分の居場所に帰りたかった。
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