something | ナノ
(魔法少女ネタその1)
(暗すぎて書きたくなくなった)

お風呂から上がって一段落した私は何の気なしに窓の外を眺めていた。並盛町は比較的町あかりの多い場所だから見える星の数は多くないけれど、それでも主だった星は見えた。見える星座の移り変わりが季節の変化を感じさせる。

私の目に、流れ星が一条見えた。もしかしたらいいことがあるのかも。そう思った私は一人で笑んだ。出来ることなら、あの人にちゃんと伝えられる勇気があればいいのになあ。胸を締め付けるような気分になって、下を向いて、また上を向いたときに、違和感。

星の数が増えている。というか、輝きが増している……?ううん、違う。星が近づいてきてる!隕石!?でも、隕石だったら大気圏に突入するときに火球として観測されるから、一体なんだろう?どのみち着弾点は私の部屋で、危ないことには変わりない。私は慌てふためいて窓際から離れる。そうしている間にも隕石(?)は私の部屋めがけて落ちてきていた。

布団をかぶって震えていたのはどのくらいの時間だったか。一瞬だったようにも思えるし、永遠だったようにも思える。まばゆい光が布団と目蓋すらも貫いて私の目に届く。やがて私の閉じた目が光を感知できなくなって、やっと私は布団という簡易シェルターから抜け出した。

そして、私は光の正体を目にする。

「ふむ、戦いに慣れた少女を、と思って来たのですが、なかなかの臆病者のようですね」

なんか見慣れた二頭身。指摘すると相手がたとえランボちゃんであってもブチ切れるたれた眉毛。今ひとつ感情の読めないつぶらな瞳。偶にツナが引っ張って痛いしっぺ返しを食らうムニムニしたほっぺ。くるんとしたもみあげ。唯一違う点は、髪の毛が金色のうねりのある毛だってことぐらいじゃないかな。

つまるところ、リボーンによく似た人がそこに居た。でもなんだかリボーンと同じには見えないのはなぜだろう。私は自分の心を奮い立たせて、口を開いた。

「あなたは……どちら様ですか?」
「私は平和の戦士リボムーン。あなたの知り合いとは似て非なる存在。もっと言えばリボ星からやってきたリボ人です」
「えっと、なんか高次生命体的なサムシングなあなたは何しにいらしたんですか?」

たちの悪い冗談みたいだ。少し頭がくらくらしてきた。こんなのエイプリルフールだけで十分だよ。でも、太陽系の外からやってきたのなら、この宇宙人相当な技術だよね。さっきのもきっと大気圏から突入してきたときの光だろうし。

「この星に侵略者がやってきました。名前はまだ不明ですが、便宜的に遊星からの侵略者と、我々はそう呼称しています」
「エイリアン?悪いことするの?」
「ええ。最近ガス漏れ事故が多発しているでしょう。それと殺人も」

ふと、問いかけのように出された最近町を賑わす事件に、学校の恐怖の代名詞のムスッとした顔が思い出される。そういえば、ここんとこかなり機嫌悪かったかな。群れの殲滅率がすごかった。意識が他に向きかけたのを目の前の宇宙人に戻す。

「あ、はい。それで雲雀さんすっごくイライラしてて」
「あれは彼らの仕業です。この星の生命体を駆逐し、自分たちが移民するのにちょうどいい星にしようとしている」

それはマズいのでは。それが真っ先に浮かんだ感想だった。そして大切な人たちを思い浮かべる。この屋根の下にいる自分の片割れ、お母さん、ビアンキ、ランボちゃんとイーピンちゃん、リボーン。友達、京子ちゃんにハルちゃん、花ちゃん。遠い空の下にいるお父さん、9代目、バジルくん、それに。あの人が簡単に駆逐されるなんて思えない。けれど。

「そんなの!絶対ダメ!」
「そうです。この星にいるあなた達が駆逐される道理など全くない。けれど彼らはそんなことを気にする存在ではありません。そして何より、彼らには通常の兵器は通用しません。この星の最先端の技術であったとしても」

その言葉に思わず顔が強張る。じゃあみんな死んでしまうかもしれないってこと?フラッシュバックのように、あの代理戦争で、きり飛ばされた腕が蘇る。思い出しただけで体が震える。

「リボ星の元老院は会議で地球人への支援を決定し、我が惑星の知恵を集結したこれを、選ばれた地球人に託すことにしたのです」
「選ばれた地球人って、まさか」
「そうです。あなたが選ばれたのです。年頃の少女で、ある程度戦い慣れており、守るべきものが数多存在しているあなたが」

めまいがした気がする。でもここで気は失えない。深呼吸して精神を落ち着かせて、異邦人に続きを促す。すると彼女は一本のステッキを取り出した。魔法少女モノに出てきそうなファンシーなデザインだ。

「このステッキは、あなたの隠し事、ここでは選ばれたことを隠す事が周囲に疑念を生み、それを魔力に変換することによって、攻撃ができたり、防御ができたりします」
「つまり、魔法少女?であることを隠さなきゃいけないって事なの?」
「理解が早くて助かります。沢山の人にその事実を隠すことによって莫大な魔力を生成することが出来るでしょう」

それは、一人ぼっちで戦えと言われているのと同義だった。今までは、なんだかんだ言って一人じゃなかった。リング争奪戦の時は片割れがいたし、私はそもそも戦わなかった。未来での戦いは、ヴァリアーの皆さんに助けられて、だからこそ最後まで頑張れた。継承式のときはツナを励ましてた。代理戦争でも色んな人に助けられた。

つまり、一人ぼっちで戦ったことは一度もなかった。いつも誰かと一緒で、誰かに助けられ助けて、そんなふうに戦っていた。

でも今度は誰も居ない。そのエイリアンに勝てる人も、私が選ばれたことを知る人も誰も居ない。本当に一人で戦わなくちゃいけない。

「もし私が断ったらどうするつもりなんですか」
「……あなたのご友人に託すつもりです」

年頃の少女で守るべきものがあって、戦い慣れてる子。クロームだ。……あの子にもう寂しい思いはさせたくない。ならば、私の答えは一つしかない。

「やります。やらせてください」
「あなたならば、そうおっしゃってくださると思っていました」

こうして、私はたった一人の戦いに身を投じた。

*

「早速で申し訳ありませんが奴が来ました。並盛町の外れにある廃工場です」
「どうやって戦えばいいんですか?」
「まずは変身しましょう。ステッキをふってください」

変身だなんてますます魔法少女モノだ。とりあえず言われたままにステッキをふる。目の前が明るくなって、どんどん自分の着ていた寝間着がオレンジ色の光りに包まれていく。部屋が見えるようになった頃には、私はオレンジ色が主体のフリフリなお洋服を着ていた。

この歳、といっても14だけど、それでもこの格好はかなり恥ずかしいよ!秘密云々以前に知り合いに見られたら絶対イヤだ。リボムーンさんはお似合いですよって言ってくれてるけどなんかあんまり嬉しくない。

「では行きましょう」

リボムーンさんはそう言うとすいーっと空を浮いていってしまう。私は慌てて後を追いかけて窓の外に飛び出した。浮遊感とともに自分の体が宙に浮いていた。

「と、飛んでる」
「ふむ。やはり選ばれただけあって飲み込みは早そうですね」

こっちです。彼女はかなりのペースで飛んでいく。私もそれについて行った。戦うのには確かに慣れている。けれど、あっちこっちであんな事件を起こす怪物なんて、私の手に負えるのかな。

不安を紛らわせるようにステッキをぐっと握った。

*

廃工場にたどり着いた。どしんどしんと、何かが暴れるような音が響く。ここは町外れだからあんまり人は来ないと思うけれど、それでもあんまりのんびりしていると人が来ちゃうかもしれない。

それは怪物としか言えないものだった。背中から足まで覆う長い棘。長い尻尾は冷えて固まった溶岩のような色の皮膚に覆われていて、先端には棘がついている。怪獣映画に出てきそうな、そんなイメージ。

道中で教わったとおりにステッキを横薙ぎに振るう。狙いは足。するとオレンジ色の光が、三日月のような形を作って、怪物の足に向かって飛んでいく。着弾した!土煙が舞い上がり怪物の悲鳴が夜の静寂を切り裂いて轟く。びりびりと空気が震える。気のせいじゃなかったら建物も震えていたと思う。追撃とばかりに、アレに向けたままのステッキに意識を集中させて、ステッキの先に光球を生み出す。そのまま真上に振り上げてそれなりのサイズのそれを放っていく。それらも狙い通りに飛んでいき、また恐ろしげな悲鳴が上がった。どすんと、何かが倒れるような音が響いた。こけた。

道中で聞いた奴らのアキレス腱。巨体を制御し、生命を維持するための基盤。これを破壊すれば彼らは直ちに死ぬのだという。そして、これは通常兵器では決して破壊できないものだということも。

両足裏の文様。これさえボロボロにすれば。

私は全力で横薙ぎにステッキを振るい、カッターにも似た光を放つ。光は片足の文様をずたずたに切り裂く。怪物は痛そうな声を上げ赤い血を流した。人間のそれとよく似た色合いに思わず顔を顰める。そして、存外、人間の悲鳴とよく似ている。確かに、戦い慣れてなかったら、この悲鳴に立ち止まってしまうかもしれない。いや、実際は私も立ち止まりそうなんだ。

でもここで立ち止まることは出来ない。私は、守りたい人がいる。何にも代えがたい人がいる。目の前の者を倒さないと、他の人が死んでしまう。

心を鬼にしてステッキを振るおうとしたその時、怪物は大きく口を開き、口から光線を放った。とっさに防御を前回にしたけれど、それでも勢い良く吹っ飛んでトタンの屋根に体を叩きつけられる。古いトタンの波板は私の体を支えきれず、バキッと屋根の一部は崩落した。背中を地面にしたたかに打つ。

けほっと咳をして、ふらりと立ち上がる。リボムーンさんが大丈夫ですか、と声をかけてくる。大丈夫。ただ一言返して屋根にポッカリと空いた空間から空を睨む。

油断と一瞬の迷いだった。でも私にはどうしてもあの怪物が。ううん。だめ。今考えたら動けなくなる。

どすどすと怪物がのし歩く音が聞こえる。歩くときの振動で工場全体が揺れている。私は開いた穴から勢いをつけて飛び出した。

真正面に怪物。やつは口を開いて、喉の奥を光らせて、光線を放つ準備をしている。私はやつを仰け反らせるために光のカッターを繰り出す。予想通りやつは仰け反った。そして魔弾を撃ち込みひっくり返す。

人間のそれとよく似た悲鳴に顔を顰めながら顕になった弱点を集中攻撃する。無心で何度もステッキを振るう。違う。あれは人じゃない。人であってほしくない。この血に刻まれた直感は人だと言っているけれど、今は手を止めちゃいけない。

ひときわ大きな悲鳴が上がり、あたりが一面水蒸気に覆われた。倒したんだ。視界が晴れたときに、現れたのは。

「人……?」

そう、人だった。普通のサラリーマンのような背広を着た若い人。でも足も顔も足裏も、ずたずたに切り裂かれていた。それは紛れもなく、私が攻撃をした場所で。

どういうこと?どうして、人が、あんな怪物になっていたの?

直感だけでなく、自分の目で怪物の正体を見て、ようやっと私の罪が理解できた。

地面がぐるぐると回っている。気持ち悪い。寒気がする。何よりも。守るべき人を命の危険にさらしていたことに、恐ろしさを感じる。もし、もし。この、目の前で倒れている人が、あの人だったとしたら。ステッキをもつ手がガタガタと震える。地面に腰を下ろしたい。でも腰を下ろせば私は動けなくなる。意地でも立っていなくては。

「ひとつ意図的に隠していた事がございます」

曰く、奴らは地球人に、心に闇を抱えた人に乗り移り、その体の制御を奪うことで、侵略をしているのだと。そして、怪物を攻撃すれば、当然宿主の体も傷つき、必要以上に傷つければ当然宿主もろとも死ぬだろうということも。

「なんでそんな大事なことを」
「そう言えばあなたは必ずや躊躇するだろうと思ったからです」

「それに、それって、他の人も、みんなも怪物になっちゃうかもしれないってことだよね?」
「そうです。この星の人は、誰でも大なり小なり暗い部分を抱えて生きています。彼らはそれにつけ込み、この星を滅ぼさんとするのです」

ということは、私の知り合いや友達もそうなるのかもしれないということだ。もし、万が一、友達が化物になっていたとして、私は、どうすればいいんだろう。

私は恐ろしい考えを首をふって振り払った。今は目の前の人に集中しなくちゃ。魔力を集中させて、お兄さんの体を治しているけれど、かなり出血が多い。なんとか傷は塞がったから大丈夫だけれど、暫くの間は抵抗力が落ちるかもしれない。

「そして、これこそがあなたが魔法少女であることを隠さなければならない、最大の理由です。ときには守るべき対象の人を殺す必要があるのです」

自分が選ばれた理由はわかった気はする。でも私だって、人を殺すのは、傷つけるのは好きじゃない。

……やっぱり、友達や大切な人にこんな思いをさせたくない。間違って知り合いを殺してしまうかもしれない恐怖を背負ってほしくない。こんな、怖い思いをするのは私だけでいい。

「……殺さないように戦えばいいんだよね」
「それができれば、ですが」
「やるよ。絶対に人は殺さない」

星空だけが私の所業を見ていた。
エイプリルフールの残骸

back
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -