「"立ち止まるな 歩き続けろ"」


不意にロードが言葉を発した。アレンと私は驚いてティムに寄り掛かっているロードを見つめた。怠そうに目を開け、それでもはっきりと後に言葉を続けた。


「ネアがマナに遺したことば…」

「ロード…ッ」

「ロードきみ…!?」

「ネアはマナの為に戦ったんだ…ナイショ だけど ね……」


そう言ってからロードは内側から光るように消えた。伸ばしたアレンの手は宙しか掴めず、空虚がそこにあった。


「ア、レン…」

「!喋っちゃ駄目だシャオリー…君もアポクリフォスのダメージが――」
「私ね、「15番目」のノアメモリーがなくってもね…、…アレンのこと…好き、だったよ…」

「…シャオリー…」

「トゥーランドット…なんて…わたしに、ふにあい、よ、ね…さいごま、で…あいを、うっ!」

口から溢れる血、アレンはシャオリーの身体を抱き起こし楽にさせてやる。ほろり、シャオリーから涙が零れた。


「愛してるの、アレン…あれ、ん……ッ」


シャオリーの意識が暗闇に沈んだ。いつの間にか小さくなっていたティムがそっと目を閉じたシャオリーの頬に擦り寄った。アレンはただ、眠るようなシャオリーを見て動けなかった。それでも前を向く。方舟を出現させる。コレに頼るのは最後にしよう、そう思いながら。足を踏み出そうとすると一迅の風が吹いた。――リナリーが息を切らしてそこにいた。涙を堪えながら気丈を振る舞う彼女は儚かった。

「リナリー…」

「どこ行くの…?ゲート勝手に出したら怒られちゃうよ…」

「うん、そだね」


笑みを浮かべるアレン、だが涙が頬を伝っていた。抱き上げているシャオリーはピクリとも動いてなかった。目を見開くリナリー。


「…どうして?行ったら私たち戦わなくちゃならなきなるんだよ!!」

「そだね。大丈夫、思いっきり蹴飛ばしていいよ」

「ふざけないで……ッ」


リナリーの肩に頭を乗っけるアレン、突然の行動に思わず戸惑うリナリーにアレンは力強く告げる。


「僕はエクソシストだ。進む道は違ってもそれは変わらないから」


ボロボロと涙が溢れるリナリーは力が抜けたのか地面に座り込んでしまった。大切な人が何人も居なくなってしまう。神田、ラビ、ブックマン、アレン、そしてシャオリー…。伏せた目先に細い指先があった。その手は綺麗だが、血まみれでありたこも出来ている。それでもリナリーはそんなシャオリーの指先ですら愛おしく、でも冷たくて…もう話すことも笑顔をみようとすることも出来ないのだと知る。嗚咽が零れる。


「リナリーやみんなのいる教団が大好きだよ…僕たちのホーム、これからもずっと」

「アレンくん…シャオリー……ッ」




神田ユウは意識を沈める前に自分に良く似た女を思い出した。「あいつはバカだ」願わくば幸をと瞳を閉じた。



ラビは朦朧とした意識を先程シャオリーがこっそり耳打ちした言葉を思い出していた。「諦めないで」ばーか、それだけじゃ分からないさ。怠さから瞳を閉じた。また会いたいと願いながら。



リナリーは足に力が入らず涙を流しそこにずっと座り込んでいた。周りを飛び回るゴーレムからは指令やら仲間の声、兄さんが自分を案じる音がしたがそれすら耳には届かなかった。目線の先は方舟のゲートがあった場所。「…狡いわアレンくん、」シャオリーを連れていっちゃうなんて。本当に、ずるいわ…。そう言いながらも瞳を閉じ、2人と戦いたくないと願った。





方舟に入りゲートを崩すアレン。そこから向かったのは14番目の秘密の部屋だった。白い部屋にあるピアノとソファは前に来た時と変わらずそこにあった。ソファにシャオリーを下ろし乱れた髪をそっと梳いてやる。


「僕も愛しています」


そっと触れる唇。シャオリーの顔が穏やかに見え、アレンはそっと笑みを浮かべた。

僕らはまだ、スタートラインに立ったばかりなのだ。


トゥーランドット、君は何を望むのかい?

僕はただ1つ、君を望もう。







トゥーランドット 完結




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