ティキがティムキャンピーを下ろした場所は教団本部から離れた森の中だった。ロードは目覚めず、シャオリーも未だ身体を動かすことができなかった。


「どうして目を覚まさないんだ、ロードにはイノセンスの攻撃が効かないんじゃないのか!?」

「オレだってわかんねぇよ。ノアメモリーにまでダメージが浸透してるのかもな。どうやらアポクリフォスはおまえらのイノセンスよりはるかに別格らしい…」

「そんな…っ!じゃあ同じようにアポクリフォスの攻撃を受けたシャオリーも…?!」

「かもしれねぇな。――ロードの扉は使えねぇなくそ…」


シャオリーとロードを見つめていたアレンは不意に教団の方を向いて「リンク…ッ」と先程助けてくれた監査官を案じた。シャオリーはふと気配を感じた。…教団の、追っ手…っ!


「ティ、キ…追っ手が…っ!」
「大丈夫ですかシャオリー!?」
「シャオリー!無理に話すな!…まあアポクリフォスの情報は掴んだし一旦退くか。千年公がこの状況に気づいてくれりゃ島の目立つ所に方舟を開けてくれるだろ。てなワケでロードもよろしく」


私を抱き留めていた腕に無理やりロードもつっこむティキにアレンがキレたようだった。


「は!?冗談じゃないなんで僕がッ!!!」

「オレはデブゴーレム連れておまえらを守りながら逃げんだぞ」

「そうじゃなくて僕らはエクソシストだ!なんでノアと一緒に逃げる……っていうかおまえ達のせいで事態がややこしくなったじゃないか!逃げたきゃふたりで逃げろ僕とティムとシャオリーは教団に…ッ」


そこまで一息で言ったアレンに異変が起こった。ドクンとイノセンスが勝手に発動したのだ。私の大鎌も光り輝き始めた。力の入らない右腕に集中するも光は止まらない。代わりにアポクリフォスの気配がした。―アレン、シャオリーそこか…そこにいるんだね―


「アポクリフォス…!」

「左腕が奴に知らせてるのか!!斬り落としてやるよ…ッ」


ティキが腕を伸ばすがそれはアレンに拒まれた。ずっと共に過ごしていたものを切り離すのを彼は躊躇ったのだ。


「おい、なーんで逃げんだよ。まだそんなものに縋る気か?」

「……近づくなッ」


ティキの目が冷たくなる。殺気も出ているようだ。


「バカかおまえ?アポクリフォス、アレが清純な神の結晶にみえたか?あの化け物が」

「おまえ達ノアだってたいして変わらないじゃないか。しかもアクマを従えて人を殺しまくってる分はるかにタチが悪い!」

私は思わず声を出して笑ってしまった。ティキも口元を歪めた。


「そのタチの悪いノアメモリーとイノセンス、ふたつの化け物を身に宿してしまいにはあの気色悪いアポクリ野郎に合体されそうになってるおまえが…自分がなんなのか知らず弁えもしない、ただ周りに混乱と争いをバラまいているおまえこそ一番タチが悪いんじゃないのかアレン・ウォーカー」


呆然とした顔つきで、アレンは何も言えなかった。ティキが正しかったから。浮かび上がるのは仲間の顔。悔しそうに歯を食いしばる。そんな最中に遠くから爆発音がする。サードと教団が衝突したようだ。それからアポクリフォスの気配が更に近付いてきた。ティキが素早くそちらを振り返る。決断は早かった。

「少年、本当にエクソシストを貫きたいってんなら戻るな。自分のなかの化け物と白黒つけに行け。――今の少年とじゃポーカーしてもつまんなそうだした」


そう言い吐いてから私の耳元に口を近付けた。


「死ぬなよ、千年公もだけど少年を一人にすんな」

「な、に…でしゃばってんのよ…ティキぽん…っ」


悪態をつくとニヤリと笑ってからティキは姿を消した。アレンは未だ彼の言葉を考えていた。今宵の満月が憎々しく思えてくる程綺麗で、悔しそうなアレンの顔に優しい光を降り注いでいた。その光景は不謹慎にも幻想的で、消え入りそうな魂を穏やかにさせた。



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