通った先はまるで牢屋のようなところだった。少し煙たく、もう戦いは始まっているようだった。


「七千年…七千年だついに見つけた!」


人形だったロードが元の姿に戻り、パニックに陥るアレンに抱き着いた。私も慌てて駆け寄った。


「アレン、もう大丈夫だから…。ほら深呼吸して?」

「ハァ、…あ……っ……シャオリー…?」


相当気が動転しているのか私たちがいることにつっこんでない。


「ノアか…まったく友達の家じゃないんだから気楽に入ってこないでほしいね」

「あ…この気配…!?イノセンス…適合者!?」

「違うよアレン」

「こいつは人間でも適合者でもない。「ハート」を護る為だけに存在する自立型イノセンス…千年公は"隠されたもの"-アポクリフォス-と呼んでる」


その姿は奇怪で、普通とは掛け離れてみえた。否、イノセンスを持つものが常識を説くのはおかしいか。シャオリーはアポクリフォスの胸元の十字架を見つめながら思った。


「ついにめぐり会えたね、七千年間ずっと探し求めてた「ハート」の…手掛かりッ」

「"手掛かり"?否、ワタシという存在はノアにとって死神に等しいのだよ」
ティーズがちぎれていく。黒蝶の残骸がはらりと地に落ちる。ティキが奴に飛び掛かった。腕を薙ぎ払うように攻撃をしかけてきたアポクリフォスをかい潜り足蹴を繰り出す。その衝撃を利用してさらに攻撃をしかけるがアポクリフォスはさらにスピードを増してティキの頭目掛け蹴りを入れた。


「ティキ…っ!」


イノセンスを発動させて加勢に加わるも黒の大鎌は攻撃しようとしなかった。な、なぜ…?まるで大鎌を握る手から闘志が抜け落ちるようだった。トスンと座り込んでしまう。目の前でティキの手に血が滴る。


「ワタシを今まで破壊してきた不熟なイノセンスと同じだと思うな」

「コイツ…ッ」


アレンが足首についていた鎖を引きちぎりクラウン・クラウンを発動させてアポクリフォスに飛び掛かった。


「おまえが…ッ、おまえが師匠を殺したのか!!?」

「アレン!!アポクリフォスに近付いちゃダメ」

「見たんだ!師匠にジャッジメントをつきつけてた!」

「……ああそうか、侵蝕しようとした際にワタシの内部が覗けてしまったんだね。おまえは寄生型だし長年の影響もあるから…でも大丈夫すぐ消去してあげよう」


こいつは一体何を言ってるんだろう。攻撃されているのに穏やかに話し掛け、笑みすら浮かべている。


「アレン、あの男は「14番目」の為におまえを犠牲にしようとしていたんだ」


その言葉と同時にクラウン・クラウンがおかしくなった。


「どうしたクラウン・クラウン!!?」

「イノセンスでワタシを傷つけることはできない。嗚呼そこのお嬢さんにも言えることだね」

「!」

「クラウン・クラウンも望んでいるのだよ、アレンの為にワタシとの合体をね!そうすればもっと強靭な力で「14番目」の記憶を圧さえられる」


ティムキャンピーがその言葉に拘束をとろうと更に必死になった。私はまだ力が入らず立ち上がることが精一杯だった。ノアとしての力を発動させる――それもアポクリフォスの左手で抑えられてしまった。


「ワタシはおまえを助けようとしているんだよアレン」

「僕はクロス・マリアンの弟子だよ…?反吐がでるね、おまえとの合体なんか!!」

そこからは一瞬だった。叫ぶアポクリフォス、走り寄るロード、ロードの蝋燭、私の攻撃、倒れ込むロード。全てがスローモーションに見えた。ロードを倒したアポクリフォスはふと私と向き合った。不思議そうに私を見つめ、嗚呼なるほどといいながらポンと手を叩いた。


「………君、「15番目」か!イノセンスを持ちながらもノア側にいるとは神への冒涜…君もアレン同様助けなきゃね」

「黙れ…!あんたの行動、イノセンスとは掛け離れてる…ッ」

「嗚呼もう…やはり力付くじゃなきゃダメみたいだね」


地を力強く蹴りただの鎌と化したそれを薙ぎ払うように動かす、踵落としも決めるが難無くそれは足首を掴まれ床に叩き付けられると同時に腹に拳がめり込んだ。



わ た し … ま ち が っ て な ん か な か っ た よ ね ?


意識が朦朧とする。大きな爆発音、誰かに掴まれる服、上へと浮くような感覚。ふと聞こえたのはさっきのアポクリフォスの声。―逃しはしない、逃れられはしないのだよアレン、シャオリー―



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