武藤 徹

このまま外へ飛び出したくなった。余所者と呼ばれる事は少なくなった、それは村の一員として認められ疎外感が無くなったのと同時に、都会という昔の私の居場所をなくしたようなものだった。勉強をしていた手を止めて、すぐ傍の窓を開けた。夜の冷たい風が部屋を駆けた。もう、恵のお葬式から何日か経ったのかと思うと少しだけ虚しさがあった。私は恵が嫌いではないが、好きでもなかった。ただ、自分の周りにいるには丁度いい人間だった。



「………」


遠くからお焼香の独特な臭いがする。また、誰か死んだのか。窓を閉めて気持ち悪い臭いをシャットダウンしてから台所に行ってみると両親が世間話をしていた。


「あら恭花さん、」
「勉強ははかどってるか?」
「もうご飯にする?」
「私たちも――」

「親ぶるのは止めて」


その言葉を発した途端、ピンと空気が張り詰めた。ごめんなさいと謝る2人。だって貴方たちは親じゃない、ただの身代わり。ぼーっとしながら冷蔵庫から飲み物を取り出して私の目の前に差し出す母親…役。


「……どこの葬式?」

「あ、…奈緒さん、かしら?」

「そう、だな…」

「ふーん」



ちゅぱ、とチューブを口から離した。ぽたぽたと赤が口から伝った。少し麻痺のような感覚が治まって元気になってきた。今日は、疲れたから余計に摂取が必要だったようだ。

血を。



困ったようにこちらを見る2人を置いて私は部屋に戻った。夕暮れ時、そろそろ奴らが動き出す頃。

「私も…動き出さなきゃね」



***


8月28日

夏なのにやはり夜は空気が冷たかった。夜目が利くのは楽だなと思いながら木々の枝を移動した。少し強めに木を蹴って高く舞い上がり、向こう側の木へと飛び移ると村々が一望できた。ふと目に入った一カ所だけぼんやりとした光。自販…?そこには人が居た。茶色のふんわりとした髪、―――武藤徹だった。自販の前でしゃがみ込んだ徹の元に影がかかった。何かが、近寄って…………っ!?



「………私と、同じ?」

徹と、私と同じ存在の男。何か喋ってると思ったら急に徹の家が"開いて"しまったのが目に入った。どうやら、始まったようだ。ふと視線を感じて徹たちの方をまた見ると青と視線が交わった。


「!」



驚く青年、を余所に私は身を翻して闇夜に消えることにした。――――――――――。常闇の中、気配が絶たない。ぐるぐると逃げ回っているとようやく気配がなくなった。どうやら今回は諦めたようだった。そう今回は。久しぶりに恐怖、に近いものを感じた。




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