清水 恵

違和感があった。

あの一家…切敷家が引っ越してきてからだ。私は私の中の血がざわめくのを感じた。村人は「とうとう兼正に引っ越してきた」と噂している。疎んでいる、という言葉が正しいのかもしれない。しかし、清水恵という女子高生はそうではなかった。ド田舎だということを恥だと思っていて、夏野同様都会に行きたがっている彼女にとっては西洋のお屋敷は魅力的なのだろう。しきりに私に兼正に行こうよと誘ってきた。でも丁重にお断りしておいた。するとぷくーと膨れて「なら1人でいくからいい!」と可愛いワンピースを翻して兼正の家のある坂を上っていった。私は…この嫌な予感が当たらないことを祈った。


***


8月11日

恵が帰ってきてないと夜に電話がかかってきた。私はすぐに兼正の家を思い浮かべた。「恭花さん!?」と呼ぶ母親の声を聞かずに家を飛び出た。―――私の、平穏を、壊すなんて、赦さない。一瞬瞳がぎらりと捕食者のモノとなった。兼正の屋敷が建つ坂を上がろうとすると向こうから懐中電灯が見えた。目を凝らしてみるとどうやら大人、……駐在さんたちだった。どうやら彼らも兼正が怪しいと思ったのだろう。なら、ここは彼らに任せよう。私は、恵を探さなきゃ。私はおもいっきり飛んで木に飛び乗った。眼下を通ってゆく大人。それを見届けてから私は木の上を移動し始めた。


***


探し始めてから大分経った頃、ざわざわと声が聴こえた。傍まで近寄るとよく目立つピンクが地に見えた。……恵?ホッとした声がここまで届いた。でも、なにかおかしい。生気が、ないといったほうがいい。ぼーっとした表情、見覚えがあった。それから次の日、かおりと一緒にお見舞いに行った。部屋に入った瞬間、私はすぐにこの香りに気がついた。恵より大人の人が付ける、香水。そして、2つの虫刺されのような跡。



思った通り、数日も経たないうちに清水恵は死んだ。




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