結城 夏野


私が言うのもなんだが、彼は、結城夏野はこの村は似合わない男だった。言うならそう、都会。冷たい空気や狭い世間しかないこの村より、キラキラとネオンの光る自由を掴める街に居そう。でもそれは私の手の届く所から居なくなってしまうことを意味する。初めて会った時から彼はきらきらしていた。その瞬間に嗚呼会わなきゃ良かったと何度も思った。彼は私たちと積極的に交わろうとはせずただ「この村を出ていきたい」と言った。恵はそのミステリアスで格好良くて都会の匂いを知る彼を羨み慕い好き付き纏った。勿論、自由を求める彼はそんな恵には興味どころか嫌悪感すら抱いているようだった。…本人には言えなかったけど。




「恭花はなんでこんな村に居られるんだ?」



私に問い掛けながらも彼は校舎の北側を―――ここから1番近い都会とも言える街の方向を向いていた。夏野はいつも遠くを見ていた。彼は、自由を欲した。


「…なんでだろうね、でも夏野と一緒だからかな?」


「……恭花、」



少し驚いたように目を開かせた彼は綺麗な深蒼い髪を冷たい風でゆらりと靡かせた。すべてが夏野を夏野らしくさせている。そう思った。どんな味がするのだろうか。夕暮れの橙色に染まる教室で、私たちは北を向きながらただ、都会というものに想像を膨らませていた。隣にお互いか、居ることを望みながら。

本当は分かっている。私たちは違える存在だと。でもこの生活にどっぷりと浸かってからは私はどうやら我が儘になったようだ。「恭花、」と彼が名前を呼ぶとキラキラとしてみえた。私はたしかに都会にも行ける、けど異端に分類されるだろう。ここにだって、そう長くは居れない。彼とだって、居れない。私の存在は容認されるわけなんてないのは重々承知してるし、弁えているつもりでもあるから。だから、今を楽しみたい。でも、と躊躇してしまう。そんな板挟みのような状況に浸って現実から逃げている私は、きっと変われないのだろう。皮肉だと嘲笑を夏野にバレないようにそっと浮かべた。




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