闇が矮躯を束縛する

10月2日


翌朝、朝日が射すと同時に私は墓所へと向かった。そこに行くにはそぐわない緋色のワンピースに黒いカーディガン、黒タイツにショートブーツと今までの動きやすい服装ではない。多分、今日から数日の間に何か動きがあるのは明白だった。急いで恵のか墓に行ったが先に夏野が来ていた。


「早いね、夏野」

「…恭花か」

「…あ、昨日の人居ない」

「…ああ」


綺麗になっている墓を見つめているとさっき来た道から2人分の足音がした。


「兄ちゃんたち早えっ!おれたち寝れなかったから絶対先に来たと思ってたのに!」

「結城さん、雨音さん…昨日の人は……えっ!?元に戻ってるわ!」

「昨日の奴が直したんだろう。棒を刺してみたが下に埋まっている様子もない」


それに昭が兼正の屋敷に戻ったんだと悔しそうに吐き出した。…そうだとは、思えないけどな。あそこは彼らの城、高みの見物のためだけであり指令などを貰うに過ぎないだろう。


「みんなであそこに乗り込んでやっつけようぜ!」

「無理ね」

「えーっ何でだよ!?あいつら吸血鬼なんだろう?だったら昼間は棺の中で寝てるだろ!」

「―いや、兼正の若いやつは夜じゃなくても起きていた」

「しかもまだ吸血鬼、って断定もしない方がいいわ。似て非なる者だとも考えられる…」


そう、十字架や聖水、ニンニクが弱いなんて映画や小説の中の話だ。…間違っていないものもあるが。それに敵は少なくても10人以上はいる。そんな人数に私たちが敵うはずもない。


「じゃあこのままやられろっての!?そんなのはいやだ!」

「じゃあどうやって得体の知れない敵と戦うの?」


つまる昭、静まったところでかおりがぼそっと呟いた。


「…本橋のおばあちゃんも起き上がるのかしら…?」

「…その人、亡くなったの?」

「あ、うん……」

「…………その婆さんの墓、わかる?」


唐突な質問にかおりはキョトンとしながらも今日埋めるから葬列についていけばわかるといった。言い終わってから漸く気付いたようだ、夏野がしようとしていることを。


「起き上がる前に墓を暴いて片をつけるんだ」


私は見ないふりをした、夏野の指先が少し震えていたことを。




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