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夕暮れ時、殆どの人はもう外には出ず家族団欒の時間を楽しむ。温かい夕食のあるテーブルを囲み、下らないことや今日起こった出来事、近所の噂や愚痴を言う。それが普通、なのだろう。まだ見る限りでは開かれた家は多くない。私は製材所を見つめた。………開かれてる。と思った矢先に人の気配がした。慌てて近くの木に飛び乗ると女性がゆっくりと製材所に入っていった。…………あれは、たしか。
奈緒さん、だったかしら?
大木から降りて静かに駆け寄り硝子窓から中を覗く。調度ずぶり、と牙がお婆さんの首に刺さるところだった。その光景は私の中の吸血行為を沸かせるのには充分だった。瞳孔ががたがたと開いたり閉じたり、身体が新鮮な血を求めている。
ダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメだめダメダメダメダメダメダメダメダメダメダメだめ…。
私は自分の腕に口を押し付けた。牙を深く深く突き刺す。味気無い血が舌に染み、身体に入る。…少し収まった所で奈緒さんはのそりと立ち上がり満足そうな表情でその場を後にした。あのスキップまでしている足の軽さは血を飲んだだけでなく、自分の義母を仲間にできるのではという期待からでもあるだろう。私はその家をじーっと見つめてから手を上に上げてから勢いよく振り下ろした。
その家は、『閉じた』。
次の日、安森奈緒はまた自宅に行き血を吸おうとした。だが家に入れず泣く泣く辰巳に報告するため引き返した。それを見て恭花は一先ず、と安堵の息を零した。
それから次の日、9月30日にお婆さん、安森節子は尾崎医院に入院することになった。
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