切敷 沙子
「ええっ!!?」
驚く姉弟、私はそれよりも向こうからする気配が気になって仕方なかった。殺気に近いものを気付かれないようにこちらに飛ばしている。夏野は日にちと時間を言って解散を告げた。……向こうもこちらも攻撃をしかけるのだ。
「よし、帰るか。……恭花?」
「夏野、買い物があるから先に行ってて」
「もうすぐ日が暮れる、危ないだろ!」
「大丈夫、商店街までだから」
夏野は不満そうだがすぐ帰るからと強く言うと仕方なさげに後ろを向いた。私は商店街までの道を進んでいたが、途中で兼正の坂道への道を選んだ。後ろから来る足音をしっかり聞きながら。振り返るとやはり、彼が居た。笑みを張り付けてはいるが、目は笑っていない…。
「こんにちは、貴方が兼正の人?」
「や!自己紹介が遅れました。切敷家の使用人の辰巳と申します。貴女は…?」
「雨音恭花。……貴方の主人に会いたいのだけど」
私がそう告げると嬉しそうに彼は主人も会いたがっていると言った。いつの間にかもう坂道は終わり、入口の前にたどり着いていた。大きな扉が開く。………いざ勝負、ってか?
***
「貴女が辰巳の言っていた人狼ね?とっても会いたかったわ」
「人狼…?」
「僕たちみたいに昼間でも行動できる起き上がりだよ」
切敷沙子と名乗った少女は私の目の前に紅茶を差し出し自分にも用意してそっとカップを手に取り口元に運んだ。甘いフレーバー、アップルティーのようだ。
「びっくりしたわ。偶然にも私たちの仲間がいるなんて…」
「私たち?まだ起き上がりがいるの?」
「辰巳以外に千鶴と佳枝、速見と江渕と佐々木が私たちの仲間。村の人たちも10人位は起き上がったわ」
本当に、嬉しいこと尽くしね。切敷沙子は手を合わせて喜んだ。彼女は私が仲間になると思っているらしい。残念、私はただの観察者。手助けなんてしないわ。もしするとしたら…あの人にだけ。
「私は貴女たちに手を貸さないわ」
「なんだと…?」
「………どうして?私たちは仲間なのよ」
ふざけないで欲しい。警戒する辰巳をフルシカトして私は立ち上がって扉を開けた。そこには美しい妖艶な女が立っていた。片手にワイングラス、もう片方にはボトルが握られている。私が近くにいることに驚いたのか目をぱちくり、とさせた。
「あら、貴女がこの村に元々いた起き上がりね?」
「……私、帰ります」
「折角だから一緒に飲みましょうよ?」
「断ります。それでは」
私は一気に跳躍して入り口まで駆けた。あまりのスピードに驚いた彼らはやはり彼女を手放すのは惜しいと再度確認した。逃げ出した恭花はこれからも接触を続けてくるであろう彼らの対策で頭を痛ませた。小さく口を開く。
「傍観、だけではいられなくなるかもね…」
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