チョイスに備えて皆がバイクの練習を始めた。ちなみに私はバイクは乗れる、ウィリーも楽勝だ。兄からの逃走用に一応大型トラックやフェリーに飛行機、ブルドーザーの免許証諸々持ってる、持ってなくても操縦できる。そう言ったら若干空気が冷えた。「凄いのな…ハハ」と武くんが笑ってた。



「ツナくんは今日はどうだった？」


「な、なんとかコケずに乗りきれました…」

「凄いわ、よく出来たね」


よしよし、とハニーブラウンのふわふわした頭に手を乗っける。照れたようにはみかみながら彼は嬉しそうだった。昔と逆だなー。目を細めながら私は沢田綱吉との出会いを思い出してみた。




＊　＊　＊



「あの、相席いいですか？」


「えっ…は、はい、どうぞ」


私はフランスの都会でも田舎でもない、小さな街で暮らしていた。カフェもまだ働き始めでお金も少なく、兄さんに見つかるんじゃないかと外にもあまり出なかった私にとって、週に１度のバーでの呑みはストレスの捌け口だった。バイオレット・フィズを一口呑んでいると後ろから声が聞こえた。男の人にはかなり警戒をしていたのでかなり緊張した。振り返ると蜂蜜色の男の人が立っていた。白いスーツを着こなし、誰が見ても惚れてしまうような甘い笑顔―――を、貼り付けていた。


「………、」


「綺麗な方ですね、お名前を伺ってもよろしいですか？」


この人は無理矢理笑うような人。作り笑いをするような人。そんな人に名前なんて教えたくない。もしかしたら兄さんの手先なのかもしれない。私は財布を取り出し代金を払おうとした。すると彼はやんわり私の腕を押さえた。


「奢ります、だからもう少し話をしましょう、ね？」


「………、偽物の笑顔の方とお酒なんて結構ですわ」


「！」


私の言葉に少しびっくりしたように目を見開いていたが彼はクスクス笑い始めた。そのまま私の意思に反して「僕と彼女にスノー・ホワイトを」とバーテンダーに頼んでいた。此方を見ながらクスクス。普通の、微笑みだった。


「僕は沢田綱吉です」


「美々……雨音美々です」

だからって名字は偽名使っちったよ。えへ。