「いらっしゃいませ」
カランと入口の扉が開く。私はさっきまでお客様のいたテーブルを拭き終え顔を上げた。真っ白が映る。――――見慣れていた、白。バイオレットの瞳と同じ位置にあった刺青。
「やっと見つけた、迎えに来たよ…………美々♪」
白いスーツを着こなした彼は、私の兄だった。
「そ、んな…………」
私は兄から逃げ出した。危険を察知した両親が危ないとこっそりアメリカからフランスへと送り出してくれたのだった。私は白い髪を正反対の黒に染め上げ、兄さんと同じ位置の刺青もファンデーションを使い隠していた。名前も偽名を使い、ひっそり慎ましく暮らしていたのに…。
「ミルフィオーレの諜報部を舐めちゃいけないなー」
「、……」
「あれ、マフィアの話は知ってるだろ?ボンゴレに助けを求めてたくらいだし、ねえ美々?」
よりによってボンゴレか、と私に伸ばす手を私は叩けなかった。ガクガクと震える身体、近づく彼から香る香水は私と同じモノ。こんなにも情報が流れていたなんて気付かなかった。……沢田さんは、大丈夫なのかしら。私を匿うと裏で助けてくれた、ボンゴレ十代目。ハニーブラウンが私に与えてくれたものは居場所だけではなかった。優しい笑顔の彼―――。
「お揃いの髪色も染めちゃうなんて、………まー戻せるからいっかー」
白蘭兄さんはくるりと後ろを振り返って、入口に立っていた青年に声をかけた。
「じゃーレオ君、後はよろしくね」
「わ、分かりました白蘭様」
レオ君、と呼ばれた青年は私たちの横を通り過ぎて厨房の方へ向かった。その間の兄さんの指は私の人工色の黒髪を持て余しながら微笑んでいた。同じバイオレットの瞳が私を離さない。
「………兄さん、こんな事はいけないわ」
「何言ってるんだい?」
スッと目を細めながら腰まで伸びた髪に絡みついていた指先が頬を滑る。顎を上にあげられいつの間にか紫がすぐ目の前にあった。離れる唇。
「兄妹が愛し合ったって、いいだろう?」
そう言って笑った兄さんは、狂っている。固まってしまった私の腕を掴みそのまま店から出ると、白いベンツが1台停まっている所まで引きずられた。さっきまで店長と話していたレオ君、とやらももう既に乗っていた。押し込まれてようやく気が付いた。――――もう、逃げられない。|