幸村と付き合わないでよかったのかもしれないとこの頃思うときがある。あの情事の次の日、私と仁王は幸村の彼女と擦れ違った。頬には顔に似合わず大きな湿布。………独占欲の表れだな、と他人事のように推測した。私はちょんちょん、と隣の仁王のブレザーの裾を引っ張った。


「幸村の彼女、怪我してたね」


「ピヨッ」


それから指を絡めて私たちは静かな屋上にやってきた。無言だった彼が強く絡めていた指を解いて私と向き合う。


「幸村はのぅ…今、揺れておる」


「は?なにテニス関連?」



その時にスラリと伸びる、細いけどかくばって男らしい人差し指が私の胸の間を触れ示す。そう、心臓を突き刺すように仁王の指が私の心臓の拍動を感じるくらい強く。


「お前さんを、好いとるようじゃ」


「……………え、ちょ…雅治?」


思わず名前を呼んだ。薄い唇が私の紡ごうとした言葉を塞いだ。慌てて離そうと思っても、男女の差で、離れられない。目を開けると切なげに眉をしかめながら、祈るようにキスを贈る仁王雅治がいた。………、あの、ペテン師の仁王雅治が、だよ?

「――…ん、ァ…雅、治…?」

「お前を、幸村に、渡すもんか」


どうやら、私が幸村に二股かけてしまうのではと不安だったらしい。でもね、雅治……もう遅いよ?


「わたしはにおうまさはるのかのじょなんだけどなあ…」


ちょこっと微笑んで上目を使えば、嬉しそうに顔を緩ませて仁王は私を抱きしめた。



なーんて、ね。









拍手文2でした!
幸村夢と同じヒロインです。