その日も雪が降っていた。


イギリスの冬は厳しい。特に夜は暖炉から火が消える事はない。その家…というか城のような屋敷もそれは当然で。強いて挙げるならその炎が緑色に近いことだけ。それでも寒い部屋に彼は1人佇んでいた。手元の書類は細かい字でびっしりと重要な書類だと我が物顔で彼を悩ませていた。ぱちり。少し指先に力が篭ったのと、薪が崩れる音が重なった。それは揺らめいて部屋にある高価な調度品に当たる光に煌めいた。彼はこの豪勢な部屋に唯一ある窓辺に立っており、外を眺めていた。すぐ傍の机には自動で動く羽ペンが幾つか、くるくると開かれたり閉じられたりする羊皮紙。ため息をつきながら左手を机に向かって動かした。すると机の上で動いているもののスピードが上がり、直ぐさま書類の束が完成した。ソレをまた左手で跳ね飛ばす様な動作で必要な所へと飛ばした。羊皮紙には、マグル狩りやら魔法省、チラリと見えた単語は物騒なものばかりだった。仕事を終わらせてふとまた外を見た。白い雪が舞っていて、幻想的とも言える景色であった。もうすぐ、次の年だ。そう思っていたヴォルデモートの元へ、扉をバンと開ける女がいた。


「ヴォル!仕事終わったの?」

「………なんだ美々、勝手に人の部屋に入るな」


当たり前のように居座る女に苛立ちを覚えながらも、殺したいとは少しも思ってない自分が居ることに気が付いた。


「………トム、」


「その名は捨てた、呼ぶな」


「いいえ、貴方が死ぬまでトム・リドルは付き纏うわ」



まるで予言のようだった。でも自分の中でもその仮説はあった。例え不死の身体になっても世界の何処かに俺様だけでなく僕を知っている人が存在していそうな気がする。くだらない。そう自分の中で切り捨てて手の内で弄ぶ杖に目を向けた。少しひんやりとした杖は唯一自分は偉大な魔法使いだと誇示しているように見えた。……嗚呼またくだらない事を思ってしまった。暗闇の中で更に闇に囚われたように動けなかった。俺様は、偉大だ。だから、今から言うことはただの気まぐれであり、戯れ事であり、深い意味はないのだ。それはただ今日が特別な日だからではなくて、ふとこいつの顔を見たらその考えが浮かんできた、ただそれだけである。きっとこいつは目を見開いて驚くのであろう。手招きをして近付いてきた美々を無理やり顎を掴んで上を向かせた。リップノイズを立てるキスをひとつ。



「美々、お前――――」



不死に、ならないか?






HAPPY BIRTHDAY!