繊細な金色から闇夜を顕す漆黒へと変わってしまった髪の毛を揺らしながら彼はふと自分の指先を見つめた。男性の割に白い細くて綺麗な指先。所々に絵の具がこびりついている。


「―…アローン…?」


その声にふと隣に目をやると美々が目を覚ました。昔の僕のような金髪に、今の余のような漆黒の瞳。嗚呼なんで冥界の王ハーデスがこんな人間の小娘を傍に置いているのだろうか。


「なんでもないよ、お眠り」


「…私にコスモがあるのがいけないの?」


突然の美々の問い掛けに思わず目を見開いて美々の顔を見つめた。目を不安と涙にいっぱいにして震える唇を動かす。この閉ざされた暗い空間の中では目立つ青白さ。ふと頬が緩んだ。それですら美々の美しさを引き立てるだけにすぎなかった。


「何も心配しなくていいんだよ」

「でも…!」


まだ言おうとする美々の唇を自分の唇で塞いだ。角度を変えて、深く、深く。美々に言葉を言わせない為、否自分自身に言い聞かせない為に。自分の中の闇が黒く深くなっていくのを感じた。なんでこの女を愛しているのだろうか。君を見ているだけで今の余は、今の僕は充分だと思えている。この閉ざされた鳥籠の中に居たって、である。揺れる瞳に自分を写して、それを確かめてからまた瞳を閉じた。――――暗闇では、君は眩しすぎる。少し冷たい2つの身体はまるで重りのようにこの部屋に沈んだ。


「私は殺さないの?」

「美々を殺すなんて、僕にはできないよ」


沈んだ身体を起こしてアローンは言った。一瞬漆黒の女が脳裏によぎった。あの女は、パンドラはこの状態の余をどう思うのだろうか。ハーデスを敬愛する彼女からしたら人間なんて、死して当然の存在にすぎないのだろう。それにハーデスの器がお熱と知ったら……間違いなく激昂して美々を殺しにかかる、に違いない。冥界の王ハーデスは、人間を死へと追いやる、血にまみれた王。しかし起こした身体に縋り付くように美々も起き上がり、首にしがみついてきた。離れないでアローン。ハーデス、傍にいて。……どうして彼女は両方の名を呼ぶのだろうか。どうして両方を求めるのだろうか。涙を流してまで僕を、余を愛すると言うのはなぜなのだろうか。でも…。ふと素肌に触れながら思った。どうやら美々への依存は、強そうだ。


「どうやら余は、お前を愛しているようだ」













懺悔のように発した言葉には非情と戸惑い、そして愛がこもっていた。どこかで何かが壊れる音がした。






―――

OVAの聖闘士星矢THE LOST CANVASを見た記念です(*^o^*)
詳しくは01/02の日記に書きます。