がたんごとん。どこか遠くで聞こえてきた。その雑音をBGMにして私は目の前の赤を見つめた。私の頬に宛てられた指は冷たくて、そこから冷えていくように感じた。にんまりとしながら唇をゆがませる折原臨也。闇夜に紛れるように身を潜ませて私がその裏路地に入った途端に絡んできた彼は、そのままナイフを片手に持ちふらふらさせた。キラリとかすかに光り、いつでも私を切り付ける事ができるぞと嘲笑っているかのようだった。そのナイフを素早くスライドしてくれれば私は楽になれるのだろうか。この赤に染まった掌も、怨まれた存在も無かったことのようになれるのだろうか。そうなれば、いいのに。そんな微かな願いは届くことはなく彼のポケットにしまいこまれた。舌打ちするとにいとさらに唇を引き攣らせて嗤った。
「君を死なせないよ」
「私は死にたいの」
ぱちぱちと視線が突き刺さる。まだ捕まれたままの頬の指が少しだけ温かく感じた、力が篭められる。いた、い。その計り知れないくらい貪欲さを漂わせた血のような赤い瞳からは悔しそうな苛立たしさも含んだ複雑なものを顕していた。
「君はもっと苦しむべきだよ、苦しんで苦しんで苦しんで…俺を憎めばいい」
「な、んであんたなんかを…」
「そうすれば、生きる理由になるだろう?」
俺の為に、君にはまだ駒になっててもらわなきゃ。そんな言葉が風のようにかすかに聞こえてきた気がした。でもその言葉に救われた気持ちになってしまったのも事実で、私は本当は誰かに止めて貰いたかっただけで、所謂弱虫というやつなのだ。
ときどき美しい悪意について
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