柔らかい陽光が頬を照らす。眩しくて思わず目を細めた。鼻先を擽る海の匂いが部屋を包みこむ。白い机、白い椅子、白いキャビネットに、白い花。私たちは白に囲まれていた。


「気に入ったかい?」


白蘭の嬉しそうな顔がもの凄く印象的だったのを今でも覚えている。そう、私は白に支配されてしまったの。


私を住まわせた小さな白い家にちょくちょく顔を出していた白蘭とは、そこまで親しかったわけじゃない。ただ、大学の同じ学科なだけだった。話した回数も両の手で足りる数。それなのに彼は一瞬で私を掻っ攫っていった。


「こんな世界、飽き飽きだろう?僕がぜーんぶ変えてあげるよ♪」


そう言って差し出した手を、私は拒む事ができなかった。



白蘭と恋人のような関係の私は、彼の仕事や仲間、プライベートなことは知らない。やけに疲れてたり、深い傷をつけてきたり、たまに暗い瞳で帰って来ること、それだけが私にとっての事実だった。



「ねぇ、私はまだここにいるの?」


1回そう尋ねたことがあった。一瞬無表情になってから、白蘭はゆっくりと悲しそうな表情へと造り変えた。


「キミは、こんなキタナイモノ見ない方がいいからね〜」


私の望んだ答えでなかった。例え今日が春の日差しであたたかく私たちを照らしても、他の私が求めた答えに溶け変わることはないだろう。なにかを隠した嘘、分かってる。それがワザとだということも。それでも私は白に恋という感情を抱いてしまった。



ところがある日を境にぱったりと白蘭が来なくなった。1週間来ない、2週間来ない、1ヶ月来ない。さすがにこれはおかしい、不安がいっぱいのまま教えられた携帯番号をプッシュする。受話器からは感情のない声。不安がさらに不安を呼んだ。


「だ、いじょうぶ…忙しい、んだよね?」


自分に言い聞かせ、部屋の隅っこで縮こまってみた。目の前は柔らかな白。それが逆に不安になる。いつの間にか白が私の大部分を占めていた。






でも、この状態が1番いいのかもしれない。そう思った。そうすれば醜い私を見られない。綺麗なまま、想え想われる。嫌な部分を、考えなくて済む。でも、貴方に、逢いたい。季節が一巡りしても、貴方は帰って来なかった。外に行く気はない。私が、変化を恐れているから。外に出てしまえば夢が醒めてしまう、そんな気がした。