彼は私に無理強いはしなかった。全て私の意見を聞いてから、1番お互いにいいとおもったものを選んでいく。それがこんなに私たちの関係が長引いた理由かもしれない。アレンは優しかった。壊れ物を扱うかのように私を抱きしめ、儚げに微笑んだ。…貴方の太陽のような笑みがみたい、月のような微笑みはもう止めてほしい。まるで私の為に無理やり笑っているようで、いつも苦しかった。


エクソシスト。


千年伯爵を倒すべく、彼の放つ兵器、アクマを破壊する唯一の武器を持つ存在。


私はサポートしかできない、たくさんの一般人のうちの1人。哀れにも簡単に死んでしまう、それを悲しみ、残念がられるような存在ではない。そう、教団にとっては、エクソシストこそこの長きにわたる聖戦を終わらせることができ、アレン・ウォーカーはその中でも最も重要な存在。


その人物が私なんかと馴れ合って、当初の目的を忘れられたら大変困る教団は、私に異例の任務を与えた。


敵地に侵入、情報を集めよ。



それは私に死ねと言っているようなもんだった。アレンは大反対、猛反発した。でも室長にこの任務を辞めさせるほどの権力はなく、逆にアレンを任務に集中させることができると、内心では思ってるに違いない。


私はアレンに何もいわずに、ノアのティキという人物がよく現れるといわれるとある鉱山にきた。私の姿を見て、鉱山で働いているらしい男が怪訝そうにえっちらおっちらやってきた。ボサボサの頭、メガネ、匂いの強い煙草の煙、砂埃を被った服。ジロジロと不躾なほど私を見てきた。


「……なんで女が此処にいるんだ?」


「ノアを、探しにきたんです」


「!……黒の教団か?」


「…………はい」



ふう、と彼は煙草をはいた。カシガシと頭をかきながら不意に私に尋ねる。


「お前、死ぬつもりでここに来たのか?」


「……私の願いは、アレンの幸せです、そのためなら死なんて…」


「少年の幸せの通過点に過ぎない、か…」


コクリと頷く私に彼、―――――ティキ・ミック卿はため息をついた。


腹に激痛が走る。持ち上がる吐き気に身体が耐えられずに吐血する。貫通したままの、向こう側が見える私の下腹部。哀れそうにティキは私を見遣った。


「少年は……お前の幸せも大切だと思うんだがなぁ…ま、じゃあな」


いつの間にか褐色の肌にしゃんとした黒いえんび服を着こなしたノアが居た。ふわふわとする視界で私は最期にノアと正反対の白い彼を思い浮かべた。



あなたに、さちおおからんことを。





 べ
  て
   は
    願
     い
    か
   ら
  始
 ま





私が願ったから彼と出会えて、付き合えて、死ぬことができる。それの何処が哀れなの?