さようなら。その言葉を告げた途端にへにゃりとした笑みが一瞬で凍った。彼の太陽のような、笑った顔しか見なかったから思わずまじまじと見つめてしまった。

そんなラビの心境を表したかのようなどんよりとした分厚い雲が漂っていた。――――ごめんね、でも、もう無理なんだ。




私たちの関係は、壊れた時計を直すように簡単には戻れないものだった。そして、それは小さな違和感から始まって、だんだん亀裂が出来て、最後には暗闇しか見えないくらいどうしようもない溝ができていた。



儚い、いつも彼を見るたびにそう思った。蜃気楼のようにふわふわと漂う、そんな感じすらしていた。私なんかが手を伸ばせるような相手ではない、分かっている。彼は選ばれた人。歴史を記録してゆくブックマン。私はその中の通過点に過ぎない。彼は優しいからそんな風には今は思ってないかもしれない。でもいつかはそうなる。沢山の人たちの下に埋もれていく1人になるのだ。誰だって、誰かの心ではそうやって埋まる存在になる、でも彼には、ラビには忘れ去られたくない、そんなおこがましい気持ちに襲われている自分がいる事も事実だった。
そんな私がラビと好き合い、付き合えたなんて夢物語のような感じだった。キスをして、身体を重ねて、たくさん愛を確かめ合った。

幸せに現実から目を遠ざけているだけだった。私は急にきっちりした制服を着始めたラビの仕事の事を知らない、たまに見る白い少年、美人な女の子、冷淡な少年、誰も知らない。私は、何も知らない。沢山傷を付けて私に会いに来るラビ、それでも私に笑いかけるラビ、もう限界だった。ただの逃避かもしれない、けれども辛い気持ちを遠ざけられるのなら…。ラビが傷付かないなら…。



「な、んでさ…オレら、愛しあってじゃん」


「……うん、」


「っ、じゃあどうし―――」


「もうね、限界なの」



ぽたぽたと雨が降ってきた。まるで私たちの間を遮るように。雨のせいかラビの輪郭がぼんやりとしてみえた。じんわりと真夏の暑さを残すような、熱を私は彼に残せたのかな、あはは。

手を伸ばそうとする彼を無理矢理背を向けることで視界から追いやり、私はもと来た道を戻っていった。でも、もう一度だけ――――あの暖かなオレンジを見たくて私は振り返った。




あなたに
雨は
似合わない




まだこちらを見て手を伸ばしたまま、固まるラビがいた。ふわりとしたオレンジは水を含み垂れ下がり、まるで覇気がなかった。

あんな姿、彼らしくない。

でもそうしたのは私だと思うと少しだけ嬉しかった。また前を向いて歩く、後悔しないように。








一夏さまへ提出。
参加させていただきありがとうございました^^