どうしてだろう。その計画を知ったとき、それがユウのことだって知ったとき、私にはみんなのように驚愕や嫌悪、罪悪感、同情はなかった。逆に私は感謝してるくらいだ。だって、そうしないと私は彼に出会えてなかったから…。ユウにとっては2度目の生、無理矢理、実験を強いられる生活。子供が耐えられるようなものではない。それでも生きてきて、生きている。


こっそり科学班から盗んだ極秘資料を閉じて窓から部屋の外を一瞥すると、私の沈んだ気持ちとは裏腹に穏やかな風が草木を揺らしていた。……会いたい、彼に、ユウに。いてもたってもいられなくなって自室を飛び出した。きっと今の時間帯なら、部屋に……。



「ユウ!」

「ノックぐらいしろ馬鹿女」


ちょうど六幻を手入れし終えたユウがいた。いつもと変わらない仏頂面に思わずぽろりと涙がこぼれた。止まらない。さすがのユウもびっくりしたのか、慌てて私を部屋へと招き入れた。アレン君の部屋くらい殺風景な部屋、ベッドに腰かけて地べたに胡座をかく輪郭のはっきりしないユウを見つめた。


「ゆ、ウ……」


「………チッ」


舌打ちのあと、すぐに目の前が青みがかった黒でいっぱいになった。驚きすぎて、涙も止まった。細いけど少しごつごつした指が、頬をなぞって水滴を掬いとった。


「あの、ね…生まれてきてくれて、ありがとう」

「………」


「私は、どんなに他の人が言おうとも…、ユウの誕生を祝福するよ」


驚いた表情のユウはゆっくりと口角を上げた。肩に寄りかかってきて、少しピクリと身体が動く、小さな声で「有り難う」と聞こえた気がした。でも私たちは物事の本質から逃げているだけなのかもしれなくて、ただ傷を舐め合って感覚に麻痺していたのかもしれない。


ヘドニストの甘やかな囁き