彼は私の憧れであった。
優しい笑みと強い力で聖闘士を纏めあげ私たちを守ってくれる、射手座の黄金聖闘士。アイオロス様は自分ではなく他人の為に力を使った。誰もが彼を崇めた。彼は笑った。俺を崇めない方がいいよ、と。最初は誰もが首を傾げ、きっと謙遜してるんだと思った。そしてそれがアイオロス様のアテナ誘拐、脱走の後からこの事だったのだと皆の罵倒の的になった。私はただ、悲しかった。憧れの存在をあんなにも貶されたのだ、心を抉られたようだった。悲しんでいると周りからは小馬鹿にされたり同情の目を向けられた。貴女は騙されていたのだ、早く目を覚ませ、と。彼と並ぶために女を捨てて、死ぬような思いで手に入れた白銀の聖衣も意味がないのだ。寂れた階段に座り込み白み始めた空を眺めた。任務後で、身体は鉄錆びくさい。
「お前、まだアイオロスを敬っているのか?」 「…どうしたのですかサガ様」 「私が問うてるのだ、答えよ」
突然現れたサガ様は少し様子がおかしかったが、それを自分が気にする余裕なんてなかった。
「私は、彼が全てだったのかもしれないです…」 「………それは、今も変わらぬようだな」
小さく笑いながらサガは手を差し伸べた。来い、と一言だけのべて。全く意味が分からなかった。美々、と低く甘い声が響いた。お腹にまで響いたかのように、それは美々を支配した。 「私と、聖域を建て直さないか」 「私と、ですか」 「君は、誰よりもサのい意思を引き継いでいると思うからね。協力してくれるよな」
その手を私は迷うことなく握った。サガ様にアイオロス様の面影を見いだした。彼ならば、アイオロス様がやりたかったことを成し遂げてくれそうだから。私は、彼のように生きたかった。サガ様の悪そうな笑みに、これからの私の生きざまが決まっているようだった。
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