サガ様は私の全てでした。


両親を亡くし貧しい村で荒んだ生活(とも呼べないくらい酷い、むしろ迷惑行為)をしていた私を憐れみ聖域へと連れて帰り雑用として使ってくれました。最初は戸惑いや怒り、言葉にできない感情とが入り乱れて相当荒れていた私をサガ様は付きっきりで世話をしてくれました。真摯に向き合ってくれたサガ様のお陰でいつの間にか心も穏やかになり、ずっと此処で働きたいとも思えるようにもなりました。こんなにも私を変えてくれたサガ様にお礼がしたく、彼のお傍にいたかった。でも彼は最も教皇に近いお方。学問や星見、若い聖闘士の教育に各地への偵察やらで忙しくなってしまわれました。彼が期待され必要とされていることは嬉しかったが、会える時間が減っていることも確かだった。ましてや私は一介の雑用(女官とはまた違うらしい)、黄金聖闘士様と関わることすら恐れ多い。では何故、サガ様は私をお拾いになったのだろうか。手元の書類を双児宮に運ぼうと階段を降りていると前から会いたかった彼がこちらへ上がってきた。帰って、こられた…!私にいち早く気付き、疲れているだろうに優しい笑顔を向けて下さった。

「久しぶりだな美々。仕事の方はどうだ?」
「お帰りなさいませサガ様!滞りなく順調でございます」
「そこまで畏まらなくてもよいのだぞ?」
「いいえ滅相もございません!サガ様こそ私ごときに話し掛けてもよろしいのですか?」

私の言葉に目を丸くしたサガ様はその後小さく笑みを零された。

「お前は優しい子だ」

頭に温もりが触れた。そうしてサガ様は十二宮を昇られた。…触られたところが熱い。

「な、んか…苦しい」

確かに感じた、心臓がその温もりと共に大きく跳ねたことを。それはズキズキと痛み、空のような青ときらびやかな金から目が離せなくさせた。