紫原くんとは正門で偶然に会った。男女で違うとは言え同じバスケ部同士、聞けば同じ方面にアパートがあるらしく一緒に帰ることになった。160cm後半の背を持つ私は女子の中では大きい方とされているが紫原くんの背は2mもあり、並ぶとかなりの差があった。そのおっきい背中を少し丸めてパリパリと口にエビセンを運んでいた。凝視してるのが気になったのか、食べようとしていた1つをこっちに向けてきた。

「たべるー?」
「だ、大丈夫…いつもたくさん食べてるよね」
「んー…たくさん動いてるからかな?」

ふにゃーとした答えが返ってきた。クシャッと音がして横を見てみるとどうやらエビセンを片付けてしまったようだ。お腹に手をあててうーん、と何やら難しそうな顔で思案していた。

「雨音ちん、おなかすいた」
「…え、今、食べてたでしょ…どっかコンビニ寄ってく?」
「お金、忘れてきちゃったー」
「…じゃあ、うちくる?」

ぱあぁっと顔を輝かせて首を縦に振る様は大型犬さながらだった。言ったそばから、家は片付いてるっけ、とか、材料残ってるかな、とか、考えてしまい大切なことを忘れていた。それは後に後悔となる。

「はい、汚いけど」
「おじゃましまーす」

私のローファーの隣に大きなシューズが並んだ。…本当に、大きいなあ。背を丸めてリビングに座りこみキョロキョロと辺りを見回す紫原くんを放って私は冷蔵庫の中を覗き込んだ。…あ、これならオムライスできる。簡単だし、いっか。

「紫原くーん、オムライスでもいいー?」
「雨音ちんの作ったものならなんでもいーよ」

ちょ…っと!キュンとしちゃったじゃないですか!もう腕に縒りをかけて作らなきゃじゃない…!



***



「お待たせー!」
「わああい」
「って、またお菓子…!?」

紫原くんは今流行りのドラマを見ながら魚の形のスナック菓子を口に運んでいた。…彼の胃はブラックホールなのではないのかと思った。

「わあ!美味しそう!」
「どうぞ召し上がれ」

スプーンを素早く握り物凄いスピードで口に運ぶ紫原くん。もぐもぐするたびに幸せそうに頬を緩ませるのを見る限り、お気に召してくれたようだ。私まで嬉しくなり、笑みを浮かべながら自分もオムライスを口に運んだ。

「ごちそーさまでした」
「お粗末さまでした」
「ほんと美味しかったーありがとう雨音ちん」

どういたしまして、そう言おうとしたが頬に当たった柔らかい何か、のせいで言葉を発せなかった。

「…おとこのこを簡単に家にあげちゃイケナイんだよー?」

そう言って笑う顔は今までのふにゃりとした笑みではなく、試合のときによく見せる顔だった。