「愛している」


そういう彼の言葉に私もよ、と返しながらも嘘つき、と心の中で叫ぶことが癖になった。…いつからだろう、彼が心にもない言葉を吐き出すようになったのは。多分、アイオロスの事件から、そして20を越えた今、今更ながらそれは顕著になった。

「寒いわね」
「私の小宇宙のせいだろうか」
「いいえ、ただ今日は冷える日だから」

そうか、とだけ呟き手を伸ばしてきたカミュの胸に擦り寄った。…また彼は嘘を吐き出した。何に怯えているのだろうか。世界は平和になった。それでも彼は失うこと、傷つくことを恐れている。それも自分でなく他人、がだ。例え自分が死んでも、他の人が守れるならいい。そういう人なのだ。でも分かってない、カミュが居ないなら私にとって生きる意味がないのだ。それに気付かないなんて、カミュは狡い。そして更に酷いのは無意識に、失うことを恐れるより最初から手に入れることを諦めているのだ。

「カミュ、カミュ…」
「どうしたんだ美々?」


「ずっと、隣に居たいわ」


「…………ああ」

彼は一瞬顔を歪めたのを私は見逃さなかった。…そんなに失いたくなければ私を貴方の一部にしてほしい。むしろ、支配されても構わないわ。