悪とか正義とか、私にとってはどうでもよかった。こんなこと、聖域でお世話になってる私が言えることではない。でも私には彼だけが全てだった。

デスマスクは任務の後は必ず血まみれで帰ってきた。元から目付きや態度の悪さで評判の悪いデスマスクをさらに悪評つけるには十分なインパクトだった。それを私はタオルを持って巨蟹宮の入口で待つのが日常になっていた。

「おかえりデス」
「…あぁ、」
「ねぇ、もうちょっとその血どうにかならない?洗濯も大変なんだ」
「………わりぃな美々」

タオルを受け取り適当に拭いてからデスマスクは一言謝罪を述べてプライベートルームへと早足に行ってしまった。…なぜ強い彼があんなにわざとらしく血濡れてくるのだろうか。それを何度問いただしても彼は答えてくれることはなかった。

「デス…」

私は平和を願っている。それはアイオロス様が聖域を裏切る前からずっと思っていたことだ。でもデスマスクを失いたくないと思ってるのも事実だ。でも彼は正義のために選ばれた戦士である。彼の努力の賜物であるが故に、私は何も言えなかった。ただ一言、「死なないで」すら言えないのだ。それは彼の生き様をも否定しかねてしまうからだ。戦いは死に繋がる。むしろ死から離れることはできないのだ。アテナ様、どうか――。何百回と呟く言葉、思わず自嘲を浮かべてしまった。こんなこと、デスマスクに言えるわけなかった。









でもさ、デスマスク。血化粧をしたって貴方の生を誇示できるわけじゃないわ。だって、殺された人も貴方同様血まみれじゃない。矛盾してるのよ、私も貴方も。そしてアテナも、世界も全て。