このまま殺されても構わないと思った。だって、大好きな人だったから。いつも微笑んでいて、楽しいことを探している真っ白い彼。でも本当は底暗い奈落のような黒さを持ち合わせている、死神のような人なのだ。漸く気付いた、白蘭が私に向けている銃を見て。

「私を殺すんですか?」
「うーん、どうしようか」
「なら早く済ませて下さい」
「あれ?命乞いはしないんだね」

少し驚いたように白蘭は薄い笑みを引っ込めて真顔になった。そんな表情は初めて見たので思わず凝視してしまう。やっぱり、綺麗。もうすぐ人生が終わってしまいかもしれないのにそんな事を考えてしまうのはやはり、彼のことが好きだからなのかもしれない。重症だな、苦笑が漏れる。

「私はそんなに生にしがみつくほど未練がましい生き方はしたくありません」
「潔いんだね」

気に入ったよ。それだけが聞こえた。一瞬で周りは暗闇になった。まるで死の国に行くみたいじゃないか。 白い彼とは正反対みたい。否むしろ彼のような闇に飲み込まれる。そういえば、彼の瞳はいつだって暗かった。まるで冥府まで繋がっているんじゃないかと思わせるほど深く暗く。…今さらだよね。そこで思考までも闇の中に堕ちた。
彼の、腕の中で彼女の全ては委ねられた。





ハデス/黄泉





黄泉…死者の魂が行くとされている地下の世界。冥土 よみじ よみのくに よもつくに。仄暗い闇の世界をイメージしました。

人間論さまに提出