彼の透き通った瞳を見て私はこれから口にしようとする言葉を一回飲み込んでしまった。ほんの少し漂う血の香りは、彼の瞳のようで、そして亡き本来の教皇の香でもあった。サガの着る法衣は漆黒であり、教皇のみが着用できるものである。

「サガ、」
「アフロディーテ達は解ってくれた。お前も、居てくれるのだろう?」

震える声に似合わず内容は強制的なものだった。サガらしくない、貴方はもっと強いのよ。後押しされるように口を開いた。

「ごめんなさい、サガ」
「その言葉を聞きたいのではない」
「私は、自分を偽ってまで世界の平和を願うことはできない」
「では滅びろというのか!?」

綺麗な青い髪がくすんだ灰色に染まっていった。表情も怒りに変わり、小宇宙がピリピリしている。

「そういうわけじゃない!ただ、もっと他の方法がある…!」
「それが私が教皇になったことではないか」
「でもその手は汚いわ。要らない犠牲を払いすぎた…シオン様、アイオロス、そしてアテナ」
「アテナ1人に、誕生したばかりの赤子に、この地球を預けるのか…?私には出来ない、今、力が要るのだ」

言い聞かせるようにサガは言葉を選びながら自分の手を見つめた。まるで、血が付いているように見えた。美々は今サガから離れたらボロボロになるのが目に見えて分かった。それでも賭けたかった、まだサガにはやり直す機会があると。

「お願い、私を解放して」
「ならぬ。ならば私がお前を」
「殺してくれたっていいわ」
「…なんだと?」

そう、逃げられないくらいなら私は死ぬ。でも気掛かりなのは地上に誕生したばかりのアテナ様だった。本来なら私が守り、お育てするはずだった。私の生きる意味、全てだった。

「私はきっと、アテナ様の傍でまた生まれるわ。……だから」



ねだれば殺してくれますか




でもね、サガ。貴方に出会って、アテナ様の為だけに生きていた私が変われたのも事実なんだよ?