「いい加減にしてください我が師シオン!!」 「黙れ小童!わしは五老峰に行くと決めたのじゃ!」 「いい年したくそじ…年長者が駄々をこねるものじゃありません!早く執務室にお戻りを!」 「ムウよ…師であるわしに今くそじじいと言いかけたな!?」
わあわあと言い争う大羊と中羊を美々はひっそりと柱の陰から見つめていた。どうやらシオンは息抜きに童虎に会いに行きたいらしい。だが今はアテナは商談のため日本へ、サガは過労でぶっ倒れてしまったので聖域を運営できるのは(不安要素な)アイオロスとシオンだけであった。
「ムウ、シオンは本当に疲れてるんだよ」 「美々…!」 「甘やかしてはいけません美々、これでは神官のいいように我々が動かされてしまうのですよ?彼らと対等又はそれ以上に話せる人が居ないと聖闘士が蔑ろにされるかもしれないんですよ!?」
ムウはそのままシオンの法衣を掴むとずるずると教皇宮の奥に引っ張っていった。
「あーあ…たしか、今日ってシオンの誕生日なのに…」 「それならムウ様は27日に誕生日だったよ」 「! 貴鬼ちゃん…!」 「おいらも4月1日だし」 「み、皆牡羊座…」
さすが牡羊座アリエスの聖闘士…。感心していると貴鬼がにっこりと笑いながら袖を引っ張った。
「美々お姉ちゃん、お願いがあるんだ」 「なあに?」 「実は…」
***
シオンは貴鬼から手紙を貰った。これからムウ様と自分は聖衣の修復の材料を取りにジャミールに帰るが、第1の宮を空けるわけにはいかないのでシオンに居て欲しい。そんな内容だった。それに二つ返事で了承するとシオンはアフロディーテが監修の下、執務を再開した。
終わったのは7時過ぎ、お腹も空いてきたので早々と教皇宮を抜け出した。久しぶりの白羊宮に少し足が軽く感じた。宮に近付くにつれ、違和感を感じた。誰かの小宇宙がある…。そして視界にも白羊宮から光が漏れ出ているのが分かった。宮の入り口に誰かが立っていた。
「お帰りなさいシオン!」 「…美々?何故ここにおる?」 「シオン、今日は30日だよ」 「…嗚呼なるほど」
合点がいった。まったく…だからムウと貴鬼はジャミールに行ったのか。さりげない気遣いにシオンは感謝した。
「シオンの好きそうなものをたくさん作っておきました!さあ早くさめないうちに!」
美々は微笑みながらシオンの背中を押して宮の中に押し入れた。リビングの椅子に腰掛けると目の前には美々が作ったご馳走が並んでいた。真ん中にはデコレーションケーキが置いてあり、甘い匂いを放っていた。
「HAPPY BIRTHDAY シオン!」 「美々…ありがとう」
久しぶりに温かく祝われた気がしてシオンは自然と柔らかい表情を浮かべた。
きみを愛したいと思った瞬間
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