「ムカつく…」
「何がだいレディ」
「レディとか呼ぶな変態」
「分かったよ美々…何を苛立っているんだい?」

レコーディングルームから出てきたレンに開口一番にムカつくと言い放った美々に少し驚きながら問い掛ける。レンをチラリと見てから悔しそうに美々は口を開く。

「…容姿も歌唱力も才能も、あんたは私よりある」
「へぇ、美々はそんな事を思ってたのか」
「羨望するなんて私らしくないけどね」
「…ん?ということは美々は最初は…」
「皆には内緒よ、こんな私がアイドル目指してたなんて」

パートナーのよしみで教えたをだからね。そう言いながらちょこっと笑みを浮かべる。いつもはつっけんどんに突き放す美々が、珍しく自分に向ける笑顔にドキッと胸が高鳴った。

美々は楽譜に何か書き込んでからはい、とレンに渡した。

「今のレコーディングで見付けた変更点。明後日までには完璧にしてね?」
「…嗚呼なるほど。了解したよ…っと、ここは半音上げたいな」
「えー…仕方ないな。じゃあ私、ここを少しテンポアップしたいからそれで妥協よ」

悪戯に笑い美々はレコーディングルームのドアを開けて出ようとしたらそのドアは開かなかった。レンが押さえつけてきた。

「ん…?」
「言い忘れてた」
「な、に…てか、近い…」
「この曲、俺は好きだよ」





低く鼓膜を伝った好き、の言葉に胸がざわめいた。