|
少女は、美々は雑兵に拘束されながらも屹然とした態度を崩さなかった。早く、誰か黄金聖闘士に会いたかった。私は未来を知っている、だから彼らの役に立つ…!
「衛兵、この娘が突然聖域に現れたのか」 「はいアスプロス様、急にアテナ神殿の付近に…」
鋭い瞳でいぬかれる。だが大丈夫…私は、平気だ。
「アスプロス様…双子座のアスプロス様!私は貴方様方に朗報を運びにきたのです!」 「素性の知れぬ者の話など、信じられぬ」
ここで美々は変な違和感に襲われた。嫌な、感じ…。それを拭い去るように声を張り上げた。
「冥王軍についてです!」 「なんだと…!?」
そうアスプロスは言うと傍にいた兵を呼び耳元で何か囁いた。そうしてその場を離れようとする。驚いて美々はアスプロスを呼び止めた。本人が聞いてくれるのではないのか…!?
「あ、アスプロス様が聞いてくれるのでは…?!」 「お前、信用されたと思ってるのか。第一冥王軍の動向なら聖闘士がしている…なぜ小娘ごときが知っているんだ!」 「知っているからよ!貴方ごときが口を出さないで!」 「お前、これから処刑されるのに呑気だな」
アスプロスに耳打ちされていた男が戻ってきて発したその言葉に頭が真っ白になった。
「え…」
男は哀れみをも含んだ表情で美々に明かした。今は教皇セージ様が視察でこの聖域に居ない。その留守の間を双子座のアスプロス様が担っている。だから、彼の言うことは絶対である。その彼がお前を不安要素であり、セージ様の耳に入れるまでもない存在であるが故に消えてもらうのだ。
「そ、んな…」 「直ぐに済む、アスプロス様自らが手を下してくださるのだ」
逃げたい逃げたい逃げたい!逃げようともがくが聖闘士を目指しているだけあり、兵士たちの力は強い。女1人を押さえておくことはたやすかった。
「なぜ…なぜなぜなぜ!??トリップしてきたのだから私には此処で生きる理由があるのよ!」 「な、何言ってるんだこの娘…」 「可笑しいわ…補正とかないの!?このままだと殺されるだけじゃない…私は彼らと過ごすんだからあっ!!」
喚き散らす美々を気味悪がる兵たち、それに気付かずまだ希望があるはず…そうだここで誰か助けてくれるのねと叫ぶ美々。処刑について正式に決まったのか、アスプロスが戻ってきた。法衣から聖衣へと変わっていた。一瞬みとれていた美々だったがそのアスプロスの雰囲気が優しいものではなくピリピリしていたので思わず「私を殺すのですか」と口走った。それにただ一言「ああ」と肯定する。
「な…っ!なぜ…」 「怪し過ぎるからだ。」 「それに黒髪なんて縁起の悪い…魔女だな」
隣から口を挟む兵の言葉に頷くアスプロス。ガラガラと頭の中で何かが崩れる音がした。手刀が首に沿えられる。未来を変えてやろうと思ったのに…!ならば、本物の魔女になってやる…!!美々はキッと下を向いていた顔をアスプロスに向けた。睨みつけ、恨みを込めて言葉を吐いた。
「お前はもうすぐ死ぬ!覚えていろ、双子座のアスプロス!!」
顔色を悪くしたアスプロスはそのまま躊躇せずに手を下した。美々は一瞬視界に赤を見て事切れた。地面に広がる赤、片付けを頼みアスプロスは双児宮へと戻ることにした。
還らぬ捨て台詞
足取りは重く、彼の頭の中で繰り返される美々の言葉、まるで呪いだった。ぐるぐるぐるぐる。何処かで誰かが嘲笑っているような気がした。
|
|