白く咲く花を見るといつも儚い彼女を思い出した。美々は元気にしているのだろうか。動かしていた筆を止めた。
「ハーデス様?」 「っ、何でもないパンドラ。それよりも報告せよ」
主の異変を訝しげに見つめていたパンドラは一喝されていた慌てて冥闘士からの報告を告げた。ハーデス城の一室、そこから見える景色は雨。ハーデスは、否アローンはこんな雨の日に思い出す事があった。
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真夜中の弧児院、外の雨音しか聞こえない静かな部屋を年上であるアローンが皆しっかり寝てるか確認していた。あどけない寝顔にゆったり笑みを浮かべる。だがゴソゴソという音を聞いて表情は固まった。ま、まさか…!外は土砂降り、泥棒が入ってきても気付かれにくい。そっと音の方に近寄る、すぐにその音の招待が分かった。1こ下の美々だった。
「どうしたんだい美々?」 「…アローン……っ、」 「もしかして、雨が嫌いなのかい…?」 「!!…父さんと、母さんが…死んだ日にも…雨、降ってたの」
闇色の瞳がアローンを見つめるがそれは空虚しか映ってなかった。自分を見て欲しい…そんなことを思っていたアローンは少し苛立った。
「なら雨の日はずっと僕が一緒にいてあげるよ。寂しくならないように」 「アローン…ありがとう」
その日は美々の手を握ったまま一夜を過ごした。その日から雨が降る度にアローンは美々の元へ行き、怯える美々の傍に寄り添った。でも彼女はまだ過去に囚われたままで、アローンはもやもやとした気持ちに包まれた。
「もっと今を、僕を見てほしい」
その言葉は声にはならず口の中で消えた。
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全く、ハーデスとして生きると決めたのに弱いな。ため息を1つつくとまた筆を動かし始めた。でもその一描きごとに思い出がまた蘇ってきた。もうあの頃には帰れないのは分かっているつもりなのに。窓の景色はいつの間にか夜になり、星が煌めいていた。敵であるアテナを守る聖闘士がモチーフとする星座が瞬く、空。でも何故か美々がいるような気がした。まさか、聖闘士になったのか…?
「逢い、たい」
無意識に出た言葉は彼女を求めるものだった。
月明かりに照らされた想い
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